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2021年6月27日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 バイデン米大統領は先週、愛犬の死を悼むコメントを発表した。ホワイトハウスを通じた正式な声明だった。犬の死というなかれ。アメリカでは多くの人が動物を愛し、両者の絆は強い。

 歴代の大統領をとってみても、ほとんどがペットを飼い、持たなかったのは、トランプ前大統領を含めわずか4人という研究もある(Factmonster)。

 重責に就いた飼い主の孤独をなぐさめただけでなく、時に政治家としてのイメージアップに一役買った〝ファーストドッグ〟も少なくなかった。

 大統領とペットとの知られざる逸話は、聞く人の心を和ませ、時に眉を顰めさせる。 

(Kira-Yan/gettyimages)

相次ぐ身内との別離悲しむ

 バイデン大統領は声明で、「チャンプは家族のだれからも愛された。私たちが喜びにあふれているときも、悲しみに暮れているときも、言葉で表せないわれわれの気持ちに気づいて、そばにいてくれた」と悲しい胸の内を明かした。

 ジャーマン・シェパードのチャンプがバイデン家に家族として加わったのは13年前。ドッグシェルターからもらい受けてきたもう一頭のメジャーとともに夫妻にかわいがられた。

 大統領は1972年11月の選挙で地元、デラウェア州から上院議員に初当選した翌月、クリスマスの買い物に出かけた当時の夫人と娘を交通事故で喪った。2015年には同州の司法長官の職にあった長男、ボー・バイデン氏に脳腫瘍で先立たれている。

 多くの身内の死を経験したバイデンさんにとって、親しい者とのあらたな別離は人一倍つらいことだったのかもしれない。

136年ぶりペット連れず トランプ氏

  前任者、トランプ大統領は、ペットなしでニューヨークからワシントンに引っ越してきた。犬も猫も連れずにホワイトハウス入りしたのは、21代のチェスター・アーサー大統領(1881ー85年在任)以来という。

 氏は就任前、「私がホワイトハウスの芝生で犬を散歩させていたら、どうみえるか想像できるかい。いい人ぶっていると思われるだろう」と記者団を煙に巻いていた。いかにも、トランプさんらしい直截なコメントだ。

 前任、バラク・オバマ氏は2008年の選挙戦のさ中、ホワイトハウスに入ることになったら犬を飼ってと2人の娘からねだられた。当選後やってきたポーチュギーズ・ウォーター・ドッグは、民主党の重鎮で、故ケネディ大統領の実弟で長く上院議員として活躍した故エドワード・ケネディ氏からの〝当選祝い〟だった。

2度ホワイトハウスで過ごした犬も

 その前任、共和党の息子ブッシュ氏の愛犬、スコティッシュ・テリアのスポッティ。〝ファースト・ドッグ〟として、一生のうち2度、ホワイトハウスで過ごしたという稀有な犬だ。

 父ブッシュ大統領の愛犬、ミリーを母として生まれ、2代目大統領に譲られて2度目のおつとめとなった。その名は、2代目が大リーグ、テキサス・レンジャーズの共同オーナーだった時のスター、スコット・フレッチャー選手にちなんでいる。

 ブッシュ一家にはスポッティと同種のバーニーとミス・ビーズリーがいた。バーニーはホワイトハウスのサウスローン入口で来訪者をチェックするのが得意。

 筆者もワシントン勤務中、飼育担当者と散歩しているのを何度かみかけた。少し気性が荒く、ホワイとハウスの広報責任者らにかみついたと聞いて驚いた。

 バーニーが死んだとき、ブッシュさんは「政治に一切口出しせず、われわれの忠実な友だった」との声明を出した。イラク戦争で人気を落とした大統領にとっては、自分を批判することのないスッポッティ、バーニーは心休まる相手だったようだ。

中東和平より困難!?ペット仲裁

 その前の主は民主党のビル・クリントン氏。アーカンソー州知事時代から大事にしていた猫のサックスとともにホワイトハウスへ。

 1997年、ラブラドール・レトリバーのバディが家族の一員とした加わったが、2匹のファースト・キャットとファースト・ドッグの関係はしっくりいかず、時に派手なにらみ合い。クリントンさんは〝仲裁〟に苦労した。

 中東和平交渉のオスロ合意で、1993年にイスラエルのラビン首相(当時、その後暗殺)とPLO(パレスチナ解放機関)のアラファト議長の歴史的な握手を実現させた大統領をして、「犬と猫の和平仲介は中東以上に困難だった」と苦笑させた。

政権のダメージコントロール

 「HUFFPOST」、「NATIONAL GEOGRAPHIC」などによると、ペットが飼い主の大統領以上に脚光を浴びたのは29代、ウォレン・ハーディング大統領のエアデール・テリアのラディ・ボーイといわれている。

 1921年、大統領とともにホワイトハウス入り、ハーディング氏とフローレンス夫人の間に子供がいなかったことから、夫妻にかわいがられ、イースター(復活祭)の礼拝、大統領のゴルフにも同行、閣議の席には専用の椅子が置かれて毎回〝出席〟した。

 ハーディング大統領は在任中、スキャンダル疑惑によって不人気をかこっていたが、愛犬の存在は連日のように新聞の紙面を賑し、それがダメージコントロールとなって、ハーディング氏に同大統領としてのまずまずの評価を与える結果になったとみる向きもある。

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