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2021年6月22日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 映画「ブリッジ・オブ・スパイ」は現実とはならなかった。

 さきにジュネーブで行われたバイデン米大統領とプーチン・ロシア大統領との会談で、合意できずに終わった議題のひとつに、双方が拘束している工作員の相互釈放の問題があった。

 日本ではほとんど報じられなかったが、決着していれば、冷え込んだ米露関係を好転させる材料のひとつになるはずだった。

(Volodymyr Horbovyy/gettyimages)

 スパイ、受刑者の釈放、交換はアメリカと旧ソ連の冷戦華やかなころ、関係悪化をぎりぎりのところで防ぐためにしばしば取られてきた手段だった。

 今回、見送られたものの、古典的な〝取り引き〟が実現寸前まで行ったこと自体、冷戦時代の映画の世界がいまなお現実であることを思い知らせてくれる。

プーチン発言にバイデン氏が呼応

 相互釈放のプランが現実味を帯びたのは、首脳会談に先立つプーチン大統領の発言がきっかけだった。ロシアのテレビ局のインタビューで、「当然、そうする。しかし、米国もそれに応えて、受刑者をロシアに送還する場合に限ってだ」と述べ、〝相互主義〟の条件つきながら積極的な姿勢をみせた。

 この発言を受けたバイデン大統領は、英国・コンウォールでのG7サミット終了後の会見で、「私はオープンだ。(米露関係)改善へのサインになるかもしれない」と述べ、受け入れる考えを表明した。

交換釈放目的で仕組む?

 米メディアなどによると、釈放が予想されるアメリカ人服役囚は、禁固16年の刑でモスクワ郊外の刑務所に収容されている元海兵隊員、ポール・ウィラン氏ら2人。

 ロシア当局によると、ウィラン氏は、ロシア国境警備隊訓練所の学生の名前と写真などを収めたUSBメモリを不法に所持していた容疑で、モスクワ滞在中の2018年にロシア情報機関に逮捕された。ロシア当局は米DIA(国防情報局)の指示をうけていたとみている。ロシア人の友人から別な機密情報を入手、謝礼を送金していた疑いもあるという。

 逮捕の手引きをしたのは、この友人で、長年、家族ぐるみで付き合いがあった。健康状態は現在、悪化しており、米政府はロシアに以前から釈放を要求している。

 ウィラン氏は自らの容疑について、「ハイテク技術が発達した時代に、重要性の低い情報入手のためにスパイ活動などすることはあり得ない」と無罪を主張。ロシア側が特定の工作員の交換を目的として仕組んだ事件との見方を示している。 

 ロシア側が釈放を望むと指摘される服役囚は、2012年に25年の刑を宣告された元軍人のビクトル・ボウト、20年の判決を受けた元民間パイロット、コンスタンチン・ヤロシェンコの両元被告。

 2人の容疑はまるで映画のシナリオのようだ。

 米当局者の間で「死の商人」のニックネームを奉られているボウト氏は、裁判記録によると、航空機を撃墜してアメリカ政府関係者と国民を殺傷しようと、対空ミサイルをコロンビアの反政府武装組織「Farc」に供与した。「Farc」は米当局からテロ組織に指定されている。

 ヤロシェンコ氏は2010年5月、知人から誘われ、ベネズエラから、リビアとガーナを経由してアメリカ、欧州に4トンにものぼる大量のコカインを運ぶ密輸に関与。リビア当局に逮捕され、米DEA(麻薬取締局)に身柄を引き渡された。

 米国内の刑務所に服役中だが、健康を害していると伝えられている。

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