FDRはペット捜索に軍艦派遣
犬好きゆえに政治的立場をめぐって物議をかもしたケースもあった。1974年に、ウォーターゲート事件で辞職した37代、リチャード・ニクソン氏。
1952年の大統領選で、共和党のアイゼンハワー候補の副大統領に指名された。支持者らからニクソン氏にワイロが贈られたのではないかとの疑惑が持ち上がり、アイゼンハワー氏は一時、候補者差し替えを検討した。
ニクソン氏は釈明のテレビ演説の最後に力を込めて述べた。「私がたった一度だけ受け取ったのはチェッカーズ(犬の名)だけだ。私も私の家族も彼を絶対手放さない」と。これで、全米の犬好きの心をつかんだといわれる。
氏は政治的な窮地を脱し、アイゼンハワー政権で副大統領tをつとめあげた。1960年の選挙ではケネディ氏に一敗地にまみれたものの、68年に念願を果たしホワイトハウス入りしたのはよく知られている。
米国の歴代大統領の中でいまなおもっとも尊敬されるといわれる32代、フランクリン・ルーズベルト(FDR)氏。
第2次大戦末期の1944年、異例の4選を目指しての選挙運動中、アラスカ遊説の際、愛犬のスコティッシュ・テリアが手違いで何とアリューシャンに置き去りにされた。 あわてた大統領は、海軍の駆逐艦を派遣して救出した。
税金を使った公私混同との非難が出たのは当然だが、大統領は「私や家族は何を言われても腹を立てないが、共和党はそれだけで足りず、ファラ(飼い犬の名)まで批判している」とやり返してこれまた犬好きを中心に喝采をあびた。
動物虐待ではないかとびっくりさせたのが、ケネディ大統領の後任、リンドン・ジョンソン氏だ。飼い犬のビーグル犬、Himの耳をつかんで引っ張りあげているところをカメラが捕らえた。
その写真が残っているが、単にじゃれていただけなのか、様子、経緯は明らかではないが、奇妙な名前と相まって動物愛護団体などから疑念を抱かれた。それによって政治的な立場に影響することがなかったのは大統領にとって幸いというべきだろう。
歴代大統領のペットは犬、猫に限らない。25代、ウィリアム・マッキンリー氏はオウム、後任のセオドア・ルーズベルト氏は6人の息子の好みに応えてポニーや蛇を、30代、カルビン・クーリッジ氏はアライグマだった。
8代、マーチン・バンビューレン氏、15代、ジェームズ・ブキャナン氏のように外国首脳からゾウやトラを贈られ動物園に預けたケースもある。
信頼できるのはペットだけ?
大統領がペットを好むのは、もちろん彼ら自身が動物好きだったからだろう。
アメリカ大統領とペットとの関係を研究している歴史家らによると、犬は映画などで悪人に飛びかかっていく〝正義の味方〟のイメージがあるため、それを飼うことで、「いいひと」という印象をもたれたいという願望がもあるのではないかという。
ストレスの強い大統領職についている人物が激務の後、犬と戯れてくつろところを見せることで、国民をほのぼのとさせ、安心感を与える狙いという見方もある。
フランクリン・ルーズベルトが任期途中に亡くなった後を継いだハリー・トルーマン氏は、「友人を欲しければ犬を飼え」と教訓めいた警句を吐いていた。
クリントン一家にバディが加わった時、ホワイトハウスのマカリー報道官は「ワシントンで1人の忠実な友を持つことは、大統領の望みだった」と説明した。トルーマン氏の言葉を実行したとも思えなくもない。
権謀うず巻く世界の首都で、大統領にとって、信用できるのは犬だけなのかーとも思いたくもなるエピソードだろう。
日米のペット文化の違い
アメリカ獣医協会によると、2016年時点で全世帯の57%が犬を飼っているという。日本の犬飼育率、2019年で12・6%という数字(PETOKOTO)に比べるとはるかに高い。
これだけ愛犬家が多ければ、犬との関係が政治家の人気、行動を左右するのは当然だろう。
日本の歴代総理大臣にも犬猫好きはいたろうが、首相官邸の場所、広さそのほかの事情からか、ペットとともに公邸で過ごしたという話は、あったかもしれないが、あまり聞かない。
東京都の小池知事が6月23日に体調を崩して入院した際、直前に愛犬が死んだことによるショックもあったのではないかと一部で報道された。
真偽のほどは不明だが、そうだとすれば日米の有力政治家が時を同じくして〝ペット・ロス〟を経験したことになる。
知事がペットの死を公表することはなかった。日米のペット文化の相違だろう。
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