世界に誇れるイベントに成長を遂げてほしい
「皇治は、この日〝図らずも〟見せたバッティングのように以前からグレーゾーンの攻撃で優位に運んだ試合がいくつかあった。そういう〝疑惑の前科〟がある観点から考えれば、今回の行為を看過することは日本の格闘技界にとってもマイナス。いくら『偶発』とはいえ1人の選手をバッティングで病院送りにし、決勝でも1度ならず2度、いや3度までも繰り返したのだから厳罰に処してもおかしくないレベルだろう。
梅野が本当に不憫でならない。あれだけの能力を持ったキックボクサーの選手生命が下手をすると、あの〝反則攻撃〟で終わりかねないのだから。これは決してオーバーな話ではない。確かに皇治は見ている側にとってキャラ立ちするキックボクサーだが、このような選手ばかりにスポットを当てるエンターテイメント路線ばかりに傾倒していると主催者側はどこかで必ず〝ババ〟を引かされることになる。その辺りはRIZINもしっかりと頭に叩き込んでおいたほうがいいだろう」とキック界の関係者は警鐘を鳴らす。
トーナメント決勝での敗戦後に引退も示唆した皇治について榊原信行CEOは梅野とのリマッチ実現を口にしたが、この一戦は果たして格闘技ファンに求められている試合なのだろうか。やはり疑問は拭えない。
今月13日の「RIZIN.28」では朝倉未来がクレベル・コイケに三角締めで失神し敗戦。ボクシングに転向する那須川は年末の大会が最後のRIZIN出場となる。朝倉兄、那須川に頼りっぱなしの大会運営では限界が見えてきているのは明白だ。こうした背景から新たなスター選手の発掘もしくは育成、あるいは世間から注目されるような「飛び道具」となるべき呼び物をRIZINは必死に模索している。
だが前出のキック関係者が指摘するように先急いでエンタメ路線に傾倒すれば、それなりの話題は集めてもRIZINの大会レベルは確実に下がってしまう。真の格闘家や真のアスリートたちがUFC、あるいはベラトールFC、ONEチャンピオンシップなど資金力豊富な海外の総合格闘技団体へ次々と流出していく流れにも拍車がかかっていくだろう。
この悪循環を食い止められるのか。「RIZIN.29」で皇治が乱発した「偶発のバッティング」は主催者側や関係者たちがRIZINの大会そのものの質の低下とエンタメ路線への傾倒化をあらためて危惧するきっかけにつながるかもしれない。皇治をヤリ玉に挙げつつ厳しい言い方に終始したが、日本の格闘技界を支えるフラッグシップ的な大会としてRIZINには今後、世界に誇れるイベントに成長を遂げてほしいと真剣に願っている。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。