世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年7月23日

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 リチャード・ハース(外交問題評議会会長)が、6月23日付のProject Syndicateで、米ロ両国がサイバー攻撃を相互に抑制する合意の可能性を論じている。

BeeBright / iStock / Getty Images Plus

 6月16日のプーチンとの首脳会談でバイデンが力点を置いた問題に、サイバー攻撃の問題があった。彼はプーチンに16の枢要なインフラのリストを手交し、サイバー攻撃の標的としないことに合意することを提案し、今後、専門家の間で協議することになった。バイデンは記者会見で、「勿論、原則は原則である。それは実際の行動で裏付けられねばならない。責任ある国は自身の領域でランサムウェア活動を行う犯罪人に対して行動する必要がある」と述べたが、これは去る5月に「ダークサイド」と呼ばれる犯罪組織によるサイバー攻撃でコロニアルパイプラインが停止した事件のように、政府は知らぬ存ぜぬというロシアの態度は容認し得ないことをプーチンに述べたということであろう。これらの枢要なインフラをロシアが標的としたらどうするのかと問われて、バイデンは「彼には我々が顕著なサイバー能力を有することを指摘した」「我々はサイバーで報復する」と述べた。

 一方のプーチンも記者会見で、この問題で協議を始めることに合意した、これは非常に重要なことだと述べた。彼はコロニアルパイプラインの事件に言及し、この種の事件はロシアでは毎年起きている、「ロシアの重要な地域の医療システムも攻撃された」と述べ、大多数のサイバー攻撃は米国の領域発、二番目はカナダ発だなどとも述べた。

 ハースの論説は、サイバー攻撃を米ロ両国が相互に抑制する合意を実現する上での障害を整理してくれている。両国が相互にサイバー攻撃の対象としない枢要なインフラに合意することが出来れば一歩前進かも知れない。そういう原則だけなら簡単に合意出来るかも知れない。しかし、その合意を担保する検証は不可能である。ハイブリッド戦略を多用するロシアが非国家の主体のサイバー攻撃の取締りに応ずるかも問題であろう。となれば、ハースの論説が指摘するように、合意の有無にかかわらず、抑止力としてサイバーの攻撃と防衛の両面の能力を磨くことが必須となろう。バイデンはサイバー攻撃には「我々はサイバーで報復する(we will respond with cyber)」と述べたが、この種の言い方はこれまでになかったことではないかと思われる。報復の意図を鮮明にし、抑止を働かせる試みかとも思われる。

 日本にとっても、サイバーの攻撃と防衛の両面の能力を磨くことは喫緊の課題である。米国との協力も能力向上の道かも知れない。米国はサイバー空間でロシアに対抗するために同盟国と協力する方針を打ち出している。因みに、6月14日のNATO首脳会議の共同声明は、「我々はサイバー攻撃が条約5条の援用に何時至るかの決定はケース・バイ・ケースで大西洋理事会により行われることを再確認する」と述べ、サイバー攻撃が、NATOの集団防衛の引き金となる武力攻撃を構成する場合があり得ることを排除していない。

  
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