白鵬に引導を渡せない他の力士たちの不甲斐なさ
そんなことより本当に心底不思議なのは、いつまで経っても白鵬に引導を渡せない他の力士たちの不甲斐なさが全く糾弾されない点である。結局、白鵬批判をスケープゴートにしているから相撲界は最も大事な問題点をスルーしてしまっているのだろう。
今場所、初日から千秋楽までの取組の中で白鵬を苦しめ、絶対に倒してやろうという気概を感じ取れたのは最後に対戦した照ノ富士だけだった。逆にとてもがっかりしたのは14日目に白鵬とぶつかった大関の正代。立ち合いで仕切り線から大きく離れて腰を落とし、ゆっくりと立った横綱に強烈な張り手を食らいながら最後は右四つに組み止められ、浴びせ倒された。
〝奇策〟に飲み込まれてしまったのか、棒立ちでほとんどいいところなく何もさせてもらえないまま完敗を喫した。正代は大相撲の令和新時代を担う旗手となるべき存在のはずだ。それが、このような無様な取口では円滑な世代交代などとてもではないが望めない。このように「打倒・白鵬」を誰一人、万人が納得する形で成し遂げられない現状こそ、日本相撲協会や周囲はもういい加減に目を向けなければいけない。
白鵬と最後まで今場所の優勝を争い、唯一苦しめた照ノ富士は横綱昇進が内定。だが、本来なら白鵬を脅かさなければならない他の大関陣は前途多難だ。正代は千秋楽で関脇高安を下し、辛うじて8勝7敗の勝ち越し。貴景勝は3日目から首の負傷で欠場し、来場所はカド番となる。コロナ禍のキャバクラ通い発覚で6場所停止処分を食らった朝乃山は今場所全休で大関陥落が決まり、再起を見通せるような状況ではない。
そうこうしているうちに、もしかすると白鵬は引退を決めてしまうかもしれない。通算50回目の賜杯を新たな目標に設定しているというが、そもそもかつては「東京五輪まで」を土俵人生の区切りとすることも示唆していた。実際に周囲からは「名古屋場所では珍しく家族を千秋楽の会場に招待し、優勝した白鵬の姿に息子さんたちが涙していた。まるで『その時』が近づいてきているかのような光景だった」と推察する声も聞こえてきている。
もしも白鵬が〝勝ち逃げ〟するかのように電撃引退したら、相撲界は間違いなく「冬の時代」どころか「氷河期」に突入するだろう。白鵬と同じモンゴル出身で横綱に昇進する照ノ富士だけではなく、日本人の強い力士の誕生は急務である。一刻も早く白鵬に臆することなく、真っ向勝負で引導を渡し切れる救世主の到来が相撲界には待ち望まれる。その時間はもう限りなく少ない。
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