世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年8月4日

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 7月14日から16日にかけて、ドイツのメルケル首相は訪米し米独首脳会談が行われた。ドイツでは9月に総選挙が予定され、メルケルは選挙後引退することになっているので、最後の訪米となる。

Rattankun Thongbun / Oleksii Liskonih / iStock / Getty Images Plus

 トランプ政権下での米独関係は、トランプによる激しい反ドイツ的言動とドイツ側の強烈なトランプ嫌悪により、極めて悪いものだった。今回のバイデンとメルケルとの首脳会談では、そうした悪い雰囲気を好転させることができたのは間違いない。もっと実質的な中身についてはどうか。気候変動問題などではトランプ下と異なり米独は足並みを揃えることができた。しかし、対ロ関係、対中関係といった地政学的課題では、あまり進展がなかったと言うべきだろう。

 対ロ関係をめぐり米独間の立場の相違の象徴となっているのが、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン、ノルドストリーム2の建設問題である。ノルドストリーム2については、欧州のエネルギーの対ロ依存を高め安全保障上問題があるとして、トランプ政権に限らず米国は長年反対してきた。バイデンも当初はノルドストリーム関係の制裁をすると言っていたが、5月に制裁適用除外を発表し、方向転換した。会談後の7月21日に、米独はノルドストリーム2の完工に合意、共同声明を発表した。声明によれば、ロシアがウクライナや中東欧諸国に対しエネルギーを武器として悪用した場合は、ドイツは独自の対応をとるとともに、EUに対し制裁を促す、などとしている。しかし、例えば、ウクライナはその実効性につき即座に疑問を表明している。米議会などでも反発の声が強いようだ。

 バイデン政権が、98%完成しているノルドストリーム2の完成を阻止するのは現実的ではないと考えたこと、また、対中姿勢を巡りドイツの協力を得たいという思惑もあり譲歩した面がある。いずれにせよ、ロシアに対する地政学的脅威の認識自体は米独の間で隔たりが残ったままであると見られる。

 中国に関しては、米国はこれを最大の地政学上のライバルと見て強硬な対中姿勢をとっているのに対し、メルケルは、中国との経済関係を明確に重視してきた。結局は欧州議会で批准が凍結されたものの、メルケルはEU中国投資協定を強引に進めていた。5Gをめぐるファーウェイの排除についても慎重な姿勢をとり続けてきた。

 首脳会談後の記者会見で、メルケルは、自由、民主主義、人権の原則重視を挙げつつ、「我々は、経済分野、気候保護、軍事部門、安全保障にいたる多くの分野における、中国との協力と競争について語り合った」「中国が多くの分野で我々の競争相手であるとの共通認識が沢山あった」など述べたが、経済問題に重点があったように見える。質疑応答で具体的に挙げたのは、貿易における公平な競争条件、テクノロジー開発、インターネットの規範作りなどであった。米独は、中国に対する地政学的脅威認識を強く共有しているとは言い難いように思われる。英コンウォールでのG7サミットの直前には、メルケルは対中政策において米国とは必ずしも軌を一にしないというようなことを言っていた。それは今回の首脳会談を経ても大きく変わってはいないと思われる。

 ドイツの地政学軽視、経済重視は根が深い。メルケルが率いてきた中道右派の与党CDU/CSUの後継首相候補アルミン・ラシェット(ノルトライン=ヴェストファーレン州首相)は、メルケルの政策を引き継ぐとしており、外交政策も例外ではないだろう。CDUは現在、総選挙における支持率がトップであり、ラシェットが次期首相になる可能性が今のところ高い。仮に、一時期の勢いを失った緑の党が再逆転を果たしたとしても、外交政策の視点が環境問題に偏る可能性がある。いずれにせよ、米独間での地政学的観点の相違とそれに起因する政策上の齟齬は、メルケル後も続くことになろう。最近発表された、中国によるサイバー攻撃を非難する、日本、米国、英国、EU、NATOによる共同声明などにも見られるように、米欧間、米独間でも、対中政策でも意見の一致は少しずつ増えていくだろうが、急速な進展はあまり期待できない。

  
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