2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2021年8月20日

商売人の本質とは?

―― 辻本会長は、自らを〝商売人〟だと呼ばれています。商売人の本質とはどのようなものでしょうか?

辻本 どんな大会社になっても商売になることは探して、算盤に合うようにするのが社長の仕事です。だから自分は商売人だと思っています。一方で、商売人ではなく、社長になる人もいます。つまり、守ることを優先する社長です。こう売って儲けようという観念がない。サラリーマン社長などには、大過なく任期を全うし後任に託すことが重要であると考えがちになり、新たな挑戦を行おうとすると反対する人もいるように感じます。

 つまり、「仕事のために」ということだけでは、商売にはなりません。売れなかったら、会社がつぶれるという危機感が大事なのです。

 例えば、ケンゾー エステイトでは、レストラン向けに「ハーフボトル」を作りました。というのも、フルボトルに比べて値段が半値になって購入しやすくなりますし、量が少ない分、早く空きボトルになります。レストランでは、空きボトルにならないと売れたことにならないのです。

 時代はどんどん早く変わっていきます。ゲームソフトがデジタルで流通するようになって販売にかける人が、以前ほど必要ではなくなりました。しかも、デジタル商品であれば、世界中どこにでも販売することができます。いま、カプコンではゲームを世界中に展開していて、大手商社などよりも多くの国でビジネスをしています。そのため、当社従業員における外国人の割合も少なくありません。

 カプコンでは、家庭用向けソフトの売上全体に占める日本の割合が約2割まで下がっています。デジタルには国境がなく、グローバルで需要に応じて幾らでも供給を行うことができます。

藤田 おっしゃる通りで、社長業はきちんと判断して決断することです。ハーフボトルのお話などはまさにそうです。どの事業をやっても共通するのは、社長は速く決めないといけないということです。そうしないと組織はだらけるし、進む方向を間違えます。

 医療機器でも、日本人、アメリカ人用があるわけではなく、全て人間用です。つまり、国境があるわけではありません。一方で、高齢化社会が進むなかで、これらの高齢者が全て病院に殺到すれば、病院はパンクします。そこで注目されているのが、処置する医学から予防医学への転換です。例えば、自分の身体データ。DNAの解析も進み、AIも進化したことで、病を予測できるようになってきています。病気になってからではないのです。これもデジタル化の賜物です。

―― 国際的な評価機関によると、日本は諸外国と比べて実際に起業する人が少ない状況にあります。これを変えていくにはどのようなことが必要でしょうか?

辻本 以前とは、日本人の認識が変化していることが大きいと思います。例えば、自分の子どもや孫が、就職せずに、キッチンカーを仕立てて移動販売するというと、今の大人たちからすれば「変なことをしている」ということになります。一方で、名の知れた企業に就職すれば「素晴らしい」ということになる。

 これは商売人の家で育った子が減っているということでもあると思います。だから、「商売」の経験を若い人たちにさせてみるということが大事になってくるのではないでしょうか。例えば、大学で勉強するのも大事だけれども、100万円を渡して、何でもいいから商売をさせてみる。自分で危機感を持ってやってみるということが大事です。1日1万円どう稼ぐか、これこそが商売です。

 商売人が減って、サラリーマンが増えました。毎月給与をもらって出世する。安定感があり、それはそれで価値があることです。でも、枠を超え、自分の発想でチャレンジをすることで、チャレンジした人にしか見えない景色が見えてくる。

 そうした若い世代が多く現れることで社会全体の活力が生み出され、さらに次の世代につながっていくのであり、社会全体のテーマとして、チャレンジを評価しサポートする土壌をより育んでいく必要があると思います。

藤田 サービス、商品を買ってくれる顧客がいないと事業は成り立たちません。日本に商売人が少なくなった要因の一つに、画一的な教育があると思います。私は、1988年に日本を離れましたが、教育の在り方は、日本では30年間、変わっていないように見えます。同じような考え方、固定概念です。与えられたものをこなすことはできても、自ら新規性のあるものを生み出すことができない。

 アメリカでは、既成概念にしばられていない人が少なくありません。日本のように社会の枠ではなく、自分で考えながらやるというスタイルです。

 実は、日本社会、そして日本の人々は、何がおかしいか、何が間違っているか、知っているのです。でも、実行しません。もしかすると、外圧がないと変えられないのかもしれない。しかし、変わらなければ、未来はありません。若者は減り、超高齢化社会を迎えています。日本の社会をどう支えていくのか。どうすれば支えていけるのか。このように考えていけば、例えば、移民の話も避けては通れないはずです。

 個人レベルで見れば、100人いれば、その人たちの人生には、100通りの生き方があって、以前のようにメインストリームがある時代ではありません。

 ダラダラ失敗し続けるのではなく、なぜ上手く行っていないか検証したら、行動を起こさなければ未来はありません。

※関連記事
『既成概念をぶっ壊す〝起業家の作法〟』

   
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る