世界からは冷ややかな目
ルカシェンコ氏は1994年以来、27年にわたって大統領を務め、強権的な統治を続けている。政府や議会の主要ポストを側近で固め、欧米から「ヨーロッパ最後の独裁者」として非難されている。今年5月には、政権側がベラルーシの領空を通過していた国際線の旅客機を強制的に着陸させ、反政権派のジャーナリストを拘束。欧米諸国はこの出来事を「国家的テロリズム」と非難し、大統領や側近たちへの欧米諸国の制裁措置が強化された経緯がある。
反体制派はリトアニアやウクライナに逃れているが、決して身の安全が保障されているわけではない。この騒動の最中の3日、迫害を逃れてきたベラルーシ人を支援する組織「ウクライナのベラルーシの家(BUD)」のリーダーがウクライナの首都キエフの自宅近くの公園で、首を吊って亡くなった状態で発見。ウクライナ警察は、自殺を装い殺害された可能性もあるとみて、捜査を進めている。
今回の騒動では、ルカシェンコ政権の後ろ盾になっているロシアのプーチン政権周辺も冷ややかに対応している。国連や米国、欧州各国が非難する「ベラルーシの火中の栗」を拾えば、自身の組織的なドーピング問題が再燃することを懸念している意向が見え隠れする。
ツィマノウスカヤさんは現役続行を求め、ポーランドもその支援を約束している。昨夏の抗議デモには多くのアスリートも参加し、代表選手になる資格や技量を持つ優秀な選手たちが、代表チームから外され、刑務所に収監される事態にも陥った。IOCも選手たちを政治的な差別から守っていないとして制裁措置を決め、ルカシェンコ氏と長男の五輪への参加を禁じている。IOCや国際陸連は、ツィマノウスカヤさんの処遇に関わったベラルーシ陸上チームコーチ陣への制裁措置も検討しているという。
ルカシェンコに楯突けば、スポーツの世界でも迫害される。東京大会は21世紀の今も残る独裁政権のありようを如実に示した。ルカシェンコ氏はこの代償をいずれ払うことになるだろう。
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