ポイントは「自分で決めること」
では、このような状況に置かれた際には一体どのようにすれば良いのか。ポイントは「自分で決めること」である。
物語は最終的には、上述した脱走劇を無事に完遂した主人公たちが、米軍のもとに辿り着き投降する。引き続き立てこもっていた大多数を説得して、残存兵のほとんどが日本に帰れることとなる。当初、敗戦を信じられなかった兵士たちのショックは大きかったが、少しすれば慣れ、貧しくも平和な暮らしへと戻ることができたのだ。
つまりは、打開したのはこの主人公たちの「自ら考えて行動した結果」。上部から愚策が押し付けられている状況でも、それに流されずに冷静に全体を俯瞰して、本当に正しいことを考えて行動したことだ。
また本作品で印象的なのが、作品の初期から状況を俯瞰して、諦観とともに一匹狼の行動をしていた「小杉伍長」なるキャラクターの存在だ。全く協調性はなかったが、集団から離れて島の中で良い暮らしをすることを唯一人、実現していた。もっとも、作中では不幸な結果に終わることになるのだが、、、
結局のところは、集団主義的な仕組みの中で、愚策にまみれて沈没していくところから離れ、個人主義の特性を活かすために「自ら考える」ということだろう。まさに自分たちの得意な「個人主義的な動き」をした主人公たちが生き残り、利得を得て、集団全体をも生き残りに導いたのが非常に印象的であった。
日本人は実は個人主義なので、個人プレー的な動きをすると結果が良い、ということだ。ダメな上層部に対して高い現場力、と比較されることもあるが、現場では制約がなく、一人一人が考えて動くことができるので、そうした日本人の特性がプラスに働きやすい、ということだろう。
だからこそ、ビジネスの世界で「創業者長」は貴重なのだ。自らが創業しオーナーである企業においては、逃げ場がなく、全ては自分が責任者だ。そのために一番正しいことを、思い切り考えて行動し、ダイレクトに結果に跳ね返ってくる。この10年、世界の時価総額上位企業の大部分が、創業者長の経営する企業に移り変わられていることが象徴している。
比較して、作中で最後まで終戦を認めなかった島田少尉。終盤までは勇猛でポジティブなリーダーとして描かれていたが、深層心理を探ってみると、「自分たちが信じてきたものが違うとなると、自己否定することになり言い訳が立たなくなる」から、その信念に頑なだったといえるのだ。立場が追われてしまう材料は、人は無意識に認めようとしない。
こうした点に更に興味があれば、『なぜ真実は人を変えられないのか』(ターリ・シャーロット、白揚社)を一読されると良い。人は無意識に自分にとって都合の良い信念を持っており、どんな事実や状況を示しても、頑なにそれを覆そうとしないことが分かるはずだ。信念といえば聞こえは良いが、要するに頑固なその人にとっての価値観・物事を見るときのフィルターのことだ。
コロナ禍で如実に考えさせられる機会にもなったが、このように上層部の方針が違うと思われる場合、盲目的に従わず、自分の頭で考えて行動できるかが、あなたの人生を良い方向に向けられるかの境目になるだろう。