世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年8月26日

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 ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が、8月3日付のProject Syndicateで、中国の台頭に対する米国と同盟国の大戦略は、冷戦時代のような生存脅威への全面勝利ではなく、ルールに基づくシステムの下で協力と対抗をする「管理された競争」を目指すことが必要であると述べている。

 ナイの主張を敷衍すれば、中国との大国間競争戦略で米国の焦点は定まりやすくなるが、二つ問題があるということだ。一つは、ロシアの脅威の特質を良く理解し、中国の腕の中に追いやることにならないような対ロシア政策が必要だということ。第二に、大国戦略で希薄になりがちな気候変動等の世界的課題について中国など大国間の協力が不可欠なこと。

 中国との競争の目的は存立を掛けた全面的な勝利ではなく「管理された戦略的競争」であり、「協力的競争」であるべきだということになろう。更にナイは、対中戦略の中核として、米国、日本、欧州の同盟関係の役割の重要性を強調する。

 議論の主眼としては、ナイの言う通りであろう。米中競争は冷戦時代の米ソ競争とは違う。米中には、米ソにはなかった莫大な経済の相互依存関係がある。「管理された戦略的競争であるべきだ」との指摘は、その通りであろう。それは1980年代の日米貿易戦争を彷彿とさせるが、国際法、条約、大国としての力の節制、国家としての規律など国際秩序のルールに基づく競争ということであろう。

 しかし、現実的には、そう楽観的にはなれない。日米貿易戦争は、同じシステム内での競争であり、GATTや日米同盟、価値観の共有等が兎も角もルールとして一定の重石になっていた。中国が同様に「管理された戦略的競争」をやる意思を持っているのかどうかは、未だ明確でない。

 中国の世界観は未だよく分からない。増大する力を如何に、何に使おうとしているのか未だ不明確だ。南シナ海に関する国際海洋法裁判所の決定を「紙屑」と言い切り無視する姿勢は不信を引き起こす。知財の盗取を続け、研究・留学交流などを通じて技術などを不法に入手しようとしていると指摘されている。

 サイバーを通じて民主主義の弱点を悪用してくる可能性も否定できない。最近甘粛省の砂漠にICBMサイロを増築中と報道された。核戦力対米パリティー追求の意図を示すものであれば、核軍縮参加の拒否と相俟って、大きな問題だ。中国は、西側の資本主義や民主主義、相互依存のナイーブな側面(弱点)を悪用して台頭している傾向が目に付く。同じシステム内の協力と競争を進めていく意思があるのかどうか、注意し乍ら見ていくことが肝要だ。

 ナイは、対中戦略の中でロシア要素の戦略的重要性も指摘する。そうだと思う。米中競争は、米中ロの三角大国関係のひとつの側面でもある。一部には、抑々中ロを分断することはできないと指摘し、米中競争の文脈での対ロ政策は達成不可能で無駄だとの見解もあるが、ベターな他策がない以上、中ロ結託をさせないようにすることは重要な戦略だ。

 対ロ政策が出来ていないと対中政策も旨く行かない。それはウクライナ等につきロシアに全面譲歩することを意味しないことは言うまでもない。全ての外交がそうであるように、具体的行動はコスト如何による。例えば、中国の核を含む軍拡に対して、米ロで共同して中国を軍縮の枠組みに入れる等の試みはあり得よう。

 米国にとり外交の優先順位付けが一層重要になってくる。最近エジプト等民主主義のための介入、アフガニスタンでの役割、リビアやハイチ等への介入などありとあらゆる関与を求める声が強くなっている。

 米国の外交資源も有限であり、全ての紛争や問題に介入、関与することはできない。やはり大国間競争、地政学的問題が米外交の最重要事項であるべきだ。その他の問題は米国等の連合や地域連合で対処する、また可能な場合は国際機関に主導させるといった柔軟な対応が必要であろう。

  
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