世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年8月9日

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Volodymyr Gruits / pinrika / Andrei_Andreev / iStock / Getty Images Plus

 バイデン大統領は、中国との競争を米外交の第一優先事項に正しく位置づけている。最初の政策文書では、中国につき「経済、外交、軍事、技術力を組み合わせて安定し開放的な国際システムに挑戦しうる唯一の競合国」と言明し、バイデンも出席した6月のNATO首脳会議の共同声明は初めて「中国の台頭は全ての同盟国にとり安全保障上の意味を持っている」としている。中国は、冷戦時代のソ連と類似した役割を果たす面も出てくる。そうすると、ニクソンが冷戦時代にソ連に対抗すべく共産党の中国を取り込んだこととの類推から、中国からロシアを引きはがすことを試みるべきであるとの意見が出てくる。

 これに対し、マクフォール元駐ロ米大使は、7月21日付けワシントン・ポストに、WPに‘Trying to pry Russia away from China is a fool’s errand’(中国からロシアを切り離そうとするのは愚か者の使い走りである)という辛辣なタイトルの論説を書いて反対している。論説の骨子は次の通りである。

・中国とのバランスをとるためにロシアを米側に引き付ける考えは魅力的に聞こえるが、今はこの考えは機能しないし、もし機能したとしても、ニクソンの時のような便益をもたらさないだろう。

・ニクソン訪中時には、成功のための不可欠な前提条件、すなわち中ソの対立が既にあった。しかし、逆に、今日の中ロの経済、安保、イデオロギーの結びつきは今までなかったように緊密である。プーチンが専制主義的な魂の友である習を捨て、民主主義の指導者バイデンとなれなれしくするだろうか。

・仮に方針変更により中ロ引き離しが成功しても、プーチンのロシアとの接近は、便益が少なく不利益が多い。米国はロシアのエネルギーを必要としていない。一方、プーチンは、アジアで中国を封じ込めるために追加的にロシアの兵士、ミサイル、船舶を配備することはないだろうし、方針変更の見返りにウクライナとジョージアに関連して好ましくない譲歩を求めるだろう。

・最もよくないのは、中国の専制主義者を封じ込めるためにロシアの専制主義者と接近することは、自由世界を統一させるとして、バイデンがこの6か月情熱をもって語ってきたことを掘り崩すことだろう。

・将来、米国は、中国を封じ込め、中国と競争する上で、ロシアとより深いパートナーシップを追求すべきであるが、それは専制的プーチンとではなく、民主ロシアとの間で始められるべきあろう。

 このマクフォールの論説には賛成できる。中国と今後対抗していく上で、ロシアを民主主義国の側につけることを考えるというのは、一見良い考えのように思えるが、全くそうではない。ロシアは腐敗した専制主義の国であり、民主主義国とは言えない。

 バイデンが中国との競争を「専制主義と民主主義の戦い」としていることには議論の余地があるが、そう言っている以上、対中関係を進める都合上、専制的なロシアと組むという選択肢はないはずである。さらに、マクフォールも指摘する通り、ロシアがウクライナとジョージアに対する違法行為を認めるような要求を米ロ接近の見返りとしてすることは十分に考えられる。

 ロシアは多くの核兵器を持っているが、経済的には、IMF統計によればロシアは韓国以下の国内総生産(GDP)しか持っていない。今後の石油価格の動向によるが、脱炭素化が言われる中、経済的にはさらに疲弊していくだろう。プーチンは、ロシアは中国のジュニア・パートナーとして生きるしかないと思っているのではないか。

 ロシアはそろそろ変わる時期に来ているのではないかと思われる。プーチンは2036年まで大統領に留まれるように憲法改正をしたが、そのかなり前に引退することになる可能性があるように思われる。プーチン後の指導者がどうなるかわからないが、西側との関係を重視する人になる可能性は低くないのではないか。その時になって初めて、民主ロシアとのパートナーシップが考慮に値する選択肢になるということだろう。

  
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