8月12日付のTaipei Timesの社説が、リトアニアによる台湾代表処設置について、「一つの中国」原則への痛手を与え得る、と指摘している。
中国外交部は、バルト三国の一国であるリトアニアが、「台湾」の名称を使用して代表処を開設することに決定したことを激しく非難した。そして、駐リトアニア中国大使を直ちに召喚するとともに、中国に駐在するリトアニア大使に対して北京を直ちに離れるよう要求した。
Taipei Timesの社説は、今回のリトアニアの行動を「大胆かつ勇気ある」ものとして歓迎しているが、中国が今後リトアニアに対し、如何なる報復的措置を取ることになるか、大いに注目されるところである。
中国政府のメディアと呼んでよい「環球時報」は、リトアニアを「狂った、小さな国」と蔑視し、こんな小さな国が大きな国との関係を悪化させようとするのはまれなことだ、と書いた。中国によれば、リトアニアの行動は「一つの中国」の原則に反し、蔡英文政権下の台湾当局の目指す事実上の「台湾独立」への道を支持するものであり、それは滅亡への道である、ということになる。
リトアニア政府が「台北」ではなく、「台湾」の名称を使った代表処を開設するというのは、ちょうど、東京にある台湾の代表処の名称を、今日の呼び名である駐東京「台北経済文化代表処」ではなく、駐日本「台湾代表処」へと切り替えることに等しい。
昨年4月、約200人のリトアニアの政治家と公的立場にある人々が、ナウセーダ大統領に対し、公開書簡を出し、台湾が WHO(世界保健機構)に参加することを支持するようにと訴えた。その時、同大統領は動かなかったが、ランズベルギス外相は台湾が WHOにオブザーバーとして参加することを公然と支持した。そして、今年 6月には、リトアニア政府は台湾に対し、二万回分のワクチンを供与した。
リトアニアとしては、このような行動が中国の怒りを買うであろうことは重々承知の上であったと思われる。それでも、リトアニアがこのような行動に出た理由については必ずしも明確ではない点もあるが、Taipei Timesの言うように、最近の中国との貿易関係の減少、歴史的・地政学的に見たリトアニアとロシアとの関係、そしてますます威圧的かつ覇権主義的になる中国共産党への警戒心などが、今回のリトアニアの対台湾政策のなかに反映されているように思われる。
シャーマン米国務副長官はリトアニア外相と電話で会談し、台湾との関係をめぐって中国から圧力を受けているリトアニアに対する支援を強調したと報道されている。同副長官は北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)の加盟国であるリトアニアと「固く結束している」と述べた、という。
近年、東欧諸国と台湾との関係の緊密化が伝えられることが多くなっている。チェコ国会議長一行が台湾を訪問し、台湾議会において「私は台湾人である」と発言し話題になったことは、記憶に新しい。
なお、本年春のG7外相会談のコミュニケでは、7か国が一致して、WHOへの台湾の意義ある参加を支持すると表明し、台湾海峡の平和と安定の重要性にも言及した。
この台湾をめぐる流れの中で、特筆しておきたいのは、東京オリンピック2020の開会式での各国選手団の入場の場面だった。2021年7月23日、Covid-19の影響で一年延期された東京オリンピックの開幕。IOC(国際オリンピック委員会)の公用語であるフランス語や英語のアルファベットの順番ではなく、日本語の五十音(あいうえお)順での入場だった。
その際、「チャイニーズ・タイペイ」の所で、中継のNHKのアナウンサーは、日本語でお馴染みの「台湾の選手団です。」と紹介し、これが台湾では大きな話題になった。中国は不快感を示しはしたが、それ以上の抗議やボイコット等の行動はなく、東京オリンピックの競技に影響することはなかった。もはや台北が台湾の一都市(首都)の名称に過ぎず、台北の他に台南や台中が存在するように、台湾が台湾であることは、誰の目にも明らかになっている。