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2021年9月15日

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今井宏平 (いまい・こうへい)

日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所研究員

2004年中央大学法学部卒業。11年中東工科大学国際関係学部博士課程修了。日本学術振興会特別研究員PDを経て、16年から現職。専門は、現代トルコ外交・国際関係論。主な著作に『トルコ現代史』(中央公論新社)など。
 

 今年6月のNATOサミットでのバイデン大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の会談でも確認されたように、バイデン政権はトルコに撤退後の治安維持、特にカブールの空港の防衛を期待し、トルコ政府もこの期待に応えることに前向きであった。トルコはNATOサミット後、パキスタンとハンガリーに対して、米国など主要国撤退後のカブール空港の防衛に関して協力を要請している。

 しかし、懸念もあった。それはタリバンがトルコを尊重する一方で、NATOの一員であるトルコはアフガニスタンから撤退すべきと主張していたことである。

タリバンとの良好な関係が生むジレンマ

 米国をはじめとするNATO加盟国の撤退が間近に迫った21年8月にタリバンが攻勢をかけ、カブールを含む全土を掌握する勢いとなった。このタリバンの攻勢はトルコにとっても予想外であったが、トルコはアフガニスタンでの貢献をNATO加盟国間の信頼の回復および国際社会における影響力の誇示という点でチャンスと捉えていた。

 まず、トルコ軍はカブールの空港の防衛を行ない、米軍、英軍と共にイェンス・ストルテンベルグNATO事務総長から称賛を受けた(NATOウェブサイト)。8月27日にはタリバンとの交渉が実現し、タリバンから空港の運営で技術的な支援を求められた。その一方でタリバンはトルコに軍を撤退するよう要請したという報道もあり、タリバンのトルコに対する真意は判断しかねるが、タリバン内部でトルコの評価が分かれていると考えるのが妥当だろう。

 一方、トルコ国内で、最大野党の共和人民党や国内世論はトルコがタリバン政権下のアフガニスタンに残ることに反発している。トルコの世論調査会社、メトロポール(Metropoll)社の調べでは、タリバンがアフガニスタン全土を支配下に置いたことに対し、65.8%が否定的に見ており、肯定的に見ている9.6%を大きく上回っている(Metropoll社の2021年8月30日のツイッター)。こうした国内世論の反発もあり、トルコ軍の一部は8月後半に撤退している。

 トルコ国内でもう一つ懸念されているのは、アフガニスタンからの難民の流入である。トルコにはすでに370万人以上のシリア難民が流入しており、新たにアフガニスタン難民を受け入れる余裕がない。21年初頭の時点で、すでにトルコには11万人以上のアフガニスタン人が流入している。こうしたアフガニスタン難民を減らすため、トルコはイランとの国境付近に156キロに渡る壁を建造している。

 とはいえ、現状でタリバンと交渉可能な国は、ムスリムが多数で外交上のつながりが深いパキスタン、カタール、トルコの3カ国に限定されている。トルコはパキスタン、カタールとの関係も良好であり、国際社会とタリバンの間の仲介を行なえる可能性のあるアクターとしてその存在感は増している。トルコは依然としてアフガニスタンは自国の存在感をNATO加盟国および国際社会にアピールするチャンスと捉えている。

 一方で、タリバンとの良好な関係を強調しすぎると、タリバンの厳格なイスラムの適用をトルコが認めたと捉えられる可能性があるので、慎重な対応が求められていると言える。

  
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