中国が9月16日に包括的かつ先進的環太平洋経済パートナーシップ(CPTPP)への加盟を正式に申請した。2020年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で習近平国家主席が加盟検討を表明していたが、このタイミングでの申請の背景は何なのか。
中国の立場から見ると、第一に、準備態勢が整ってきたことがある。前身の環太平洋連携協定(TPP)への対応は13年から上海など4カ所の自由貿易試験区で規制緩和(業種、制度)が試行され、TPPレベルには至らないが、その後全国21カ所に拡大されている。
多国間の自由貿易協定(FTA)においても、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)調印(20年11月)、欧州連合(EU)と中国の包括的投資協定(CAI)基本合意(20年12月。政治的理由で批准手続き凍結中)を達成し、次なるステップに進む必要があった。
第二には、加盟交渉に有利なタイミングが到来したことである。米国がCPTPP復帰の動きを見せない一方、22年の議長国は、中国の加盟に歓迎の意を示してきたシンガポールであり、23年議長国のニュージーランドも中国とのFTAを21年に結び直すなど関係は良好だ。
第三には、バーゲニングパワー(交渉力)の高まりがある。中国経済の規模はTPP加盟国合計より大きく、新型コロナウイルス感染症の影響から脱している。大市場である中国に対する加盟国の拒絶感は確実に低下している。
加盟国の実際の反応はどうか。日本では、中国の申請に疑念表明する向きが多いが、東南アジア諸国連合(ASEAN)では、シンガポール以外にベトナム、マレーシアも歓迎の意を示している。日本は地政学的な懸念が先行した反応、ASEANは経済的実利を期待した反応といえる。
無論、加盟に向けたハードルは高い。中国には、国有企業優遇措置、知的財産権保護の不徹底、最近打ち出された電子データ移転制限措置などCPTPPルールに抵触する要素が多い。また、豪州は対中関係が悪化しており、カナダやメキシコは米国と締結した米国・メキシコ・カナダ協定が求める事実上の「非市場経済とのFTA締結禁止」に縛られる。これら諸国は中国の加盟を歓迎しないだろう。また、先に加盟申請している英国が加盟条件を満たすことは確実で、中国にとっての敷居は高くなる。
とはいえ、加入申請は受理されている。その後に台湾が加盟申請し、中国が反対を表明するなど事態は複雑化しており、日本は難しい舵取りを迫られることになりそうだ。