2024年4月25日(木)

Wedge REPORT

2021年12月1日

社会を支え、自らも救われる
高負担への「納得感」が大切

 以上、フランスが「子どもは社会で育てるもの」とし、手厚く支援する背景を述べてきた。この国では、子育てを親だけに託す弊害と社会で分かち合うことの意義が、広く理解されている。個人のライフスタイルや子どもの有無にかかわらず、血縁を超えても、同じようにである。

 母親として日仏両方の出自を持つ子を育てている筆者は、このフランスの子育て観のありがたみを、日々実感している。私が「フランス人ではない」という理由で利用できなかった子育て支援や制度はひとつもない。子どもたちも同様、その二重の出自ゆえに享受できない福祉や教育はなかった。母国を遠く離れた場所で私が2人の子を産み育てようと思えたのは、この国の制度下での育児に不安がなかったからだ。確定申告の際は夫とともに、「これだけ支援されたら、子を持ってよかったと思える。自分たちもこの社会を支えなくてはね」と語り合っている。

 翻って、日本ではどうだろう。この国で育つ子どもたちを出自や血縁を超えて「必要な存在」と認め、社会で育てる仕組みを作り、そのための負担を分かち合う認識を、国民の間に醸成することができているだろうか。

 少子化の流れを止めるには、より多くの人が「産める・育てられる」と感じられる子育て環境が必要だ。そして、子どもの有無にかかわらず、幅広い国民の理解と参画が欠かせない。今の日本が手がけるべきは、子育てを「親の義務」という固定観念から解き放ち、「社会の責任」へと昇華することだ。子育て支援予算の倍増にはその理念がセットであらねばならないと、フランスの事例は強く示唆している。

Wedge12月号では、以下の​特集「日常から国家まで 今日はあなたが狙われる」を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンでお買い求めいただけます。
■日常から国家まで 今日はあなたが狙われる
Part1 国民生活から国家までを揺さぶるサイバー空間の闇
山田敏弘(国際ジャーナリスト)
InterviEw1 コロナ感染と相似形 生活インフラを脅かすIoT攻撃
吉岡克成(横浜国立大学大学院環境情報研究院・先端科学高等研究院准教授)
coLumn1 企業を守る手段の一つ リスクに備える「サイバー保険」 編集部
Part2 主戦場となるサイバー空間 〝専守防衛〟では日本を守れない
大澤 淳(中曽根康弘世界平和研究所主任研究員)
Part3 モサド元高官からの警告 「脅威インテリジェンス」を持て
ハイム・トメル(元モサド・インテリジェンス部門トップ)
Part4 狙われる海底ケーブル 中国サイバー部隊はこう攻撃する
山崎文明(情報安全保障研究所首席研究員)
Part5 〝国家〟に狙われる日本企業 経営層の意識変革は待ったなし
川口貴久(東京海上ディーアールビジネスリスク本部主席研究員)
coLumn2 不足するサイバー人材 「総合力」で企業を守れ  編集部
InterviEw2 「公共空間化」するネット空間 国民を守るために必要な機関
中谷 昇(Zホールディングス常務執行役員GCTSO)

   
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Wedge 2021年12月号より
日常から国家まで 今日はあなたが狙われる
日常から国家まで 今日はあなたが狙われる

いまやすべての人間と国家が、サイバー攻撃の対象となっている。国境のないネット空間で、日々ハッカーたちが蠢き、さまざまな手で忍び寄る。その背後には誰がいるのか。彼らの狙いは何か。その影響はどこまで拡がるのか─。われわれが日々使うデバイスから、企業の情報・技術管理、そして国家の安全保障へ。すべてが繋がる便利な時代に、国を揺るがす脅威もまた、すべてに繋がっている。


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