2024年11月22日(金)

World Energy Watch

2021年12月10日

 中国と並びEV市場を牽引する欧州でも10月の販売台数は18万4000台、前年同期比26%増。全販売台数が前年同期比29%減となるなかで、EVはシェアを23%(うち13%がBEV)まで伸ばしている。

 全世界では、10月のEV販売は前年同期比70%増、58万9000台、シェア8.8%。1月から10月までの販売台数は485万台、シェア7.2%。年末にかけEVの販売台数は増加する傾向にあり、今年のEV販売台数は600万台を超え、中国がそのうち半分を占めると予想されている。来年の販売台数については、半導体チップス、バッテリーの供給が影響を与える可能性はあるものの、さらに増えるものと思われる。

 EV市場を牽引する欧州での1月から10月の販売上位の車種は表-1の通りだ。中国市場では中国製の廉価な小型EVの浸透がEVシェア増に寄与し、販売上位車種ではテスラ・モデル3が2位、モデルYが3位、それぞれ11万2000台、10万6000台、合わせて9.5%のシェアを持っているのを除けば、上位10車種は中国メーカーのEVが占めている。欧州市場を席巻する欧州メーカー車の影は薄い。その欧州市場では、COP26期間中の英国のEV導入呼びかけに応えなかったドイツの新政権が、いよいよEV導入に踏み切った。

署名を拒否したドイツが……

 英国政府が発表した宣言“COP26 declaration on accelerating the transition to 100% zero emission cars and vans”(排出ゼロの乗用車、バンへの転換を促進するCOP26宣言)ではZEVは「CO2をテールパイプから排出しない車」と定義されたため、ドイツ政府は署名を拒否した。ドイツの運輸大臣はツイートなどで「内燃機関技術の利用も将来に備え考えるべきだ。合成燃料の利用もありえる。CO2を増やさない限り技術を限定すべきではない」と説明している。

 ICEを利用しバイオエタノール、バイオディーゼル、あるいは水素から製造するE-Fuelを利用すると車からはCO2が排出されるが、バイオ燃料は植物が大気中から吸収したCO2を大気に戻すだけであり、大気中のCO2を増やすことにはならない。E-Fuelについては、電気分解により水素を製造する時に再生可能エネルギーあるいは原子力からの電気を使えば、CO2は発生しない。水素と合わせるCO2を大気中から吸収すればバイオ燃料と同じように大気中のCO2を増やすことにはならない。ただし、電気分解による水素と大気中からCO2を吸収するコストを考えれば、30年時点でもE-Fuelは石油系燃料の数倍の価格になるとみられている。

新政権への連立協議も影響か

 ICE技術を生かしたいドイツ政府は、英国政府に対し、バイオ燃料、E-Fuelの使用も可能になるようにZEVの定義を変更すれば、さらに多くの国、企業が賛同できると掛け合ったが、英国政府は首を縦に振らなかった。ICEでは、日本、ドイツメーカーに競争優位があると考えれば、英国としてはEVの利用を推進することにより自国メーカーによる市場の確保を優先する考えだろう。

 ドイツでは、メルケル首相を支えた大連立政権の後を担う社会民主党、緑の党、自由民主党により連立協議が行われ、11月下旬に合意に達した。自動車については次が合意された。

・2035年にICE車の販売を禁止し、ZEV100%導入とする欧州委員会(EC)の提案を支持
・2030年にドイツ国内のEV台数を1500万台にする
・2030年までにEV用充電ポイントを100万カ所にする

 社民党と緑の党は、現在、都市部近郊を除き制限速度がないアウトバーンでの制限速度導入を提案したが、産業界寄りとされる自由民主党が拒絶したとされる。さらに、35年以降もE-fuel利用のICE車は認められるとする文言も連立合意に入っている。ポルシェ好きとされるクリスティアン・リントナー自由民主党首の影響と分析する報道も見られる。党首の収入は議員歳費以外に50万ユーロ近くあるとオンブズマンが発表している。彼であれば高価格と予想されるE-fuelを使ったポルシェにも乗れるだろうと揶揄するメディアもある。だが、ICE車禁止のEC目標とE-Fuel利用の整合性ははっきりしない。


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