世界の記述

2021年12月19日

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「アラブの春」の発端となった北アフリカのチュニジアは、唯一の民主化の成功例と見なされてきた。だが2020年の国民一人あたりの国内総生産(GDP)は11年の革命の前より2割近く低下し、国民の暮らし向きが良くなっているとは言い難い。

butenkow / Getty Images

 チュニジアは21年11月中旬、国際通貨基金(IMF)との借り入れ交渉を開始した。支援要請を受けたIMFは、チュニジア政府に対して、まず補助金および肥大化した公的部門の賃金の削減を実施するよう促している。

 チュニジア経済は、新型コロナウイルス禍の後退と共に回復が期待されていた。しかし、11月下旬に発表された政府資料では、GDP成長率や財政赤字の対GDP比率、総債務の対GDP比率が軒並み悪化した。同国の雇用相は11月15日の時点で、チュニジア最大の労働組合「チュニジア労働総同盟」(UGTT)との合意事項の履行を確約するなど余裕を見せていただけに、急激な方向転換となった。

 経済の先行きが怪しくなるなか、政治面でも内政において芳しくない動きが顕在化し始めている。11月9日、第二の都市スファックスの沿岸地域のアグエレブ町で、埋め立て処分場の再開に抗議していたアブデル・ラゼリ・ラシェヘブさん(35歳)が治安部隊の催涙ガスで死亡する事件が発生した。その後、悪化するごみ危機を巡り、怒りの収まらない群衆と治安部隊との対立は拡大し、今日まで続いている。

 チュニジアでは21年7月、大統領のサイード氏が首相の解任と議会の停止を行い、議会制民主主義からの逆行を印象付けた。サイード氏は12月13日、国営テレビを通じた演説で総選挙を「来年12月」とし、それまでは議会が開かれないことになる。議会を主導していたイスラム政党アンナハダは「クーデター」とサイード氏を非難しているが、アンナハダ政権下の経済苦境にコロナ禍も重なり政府批判の声が高まっていたこともあり、国民の中にはサイード氏の「独裁」を歓迎する声も少なくない。

 また空席となった首相の座には、初の女性首相としてナジュラ・ブーデン・ラマダン氏がサイード氏により任命されていたが、10月には、テレビ番組にてこれを非難していた国会議員とジャーナリストが、国家の安全保障を犯そうとしたとの容疑で逮捕されている。11月末に彼らは釈放されたが、22年1月には公聴会が予定されているなど、完全な自由の身には程遠い。

 「アラブの春」の唯一の民主主義が存続するのか、転機にある。

 
 

  
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