「Wedge」2021年10月号に掲載され、好評を博したWedge Opinion Special Interview「エマニュエル・トッド 大いに語る――コロナ、中国、日本の将来」の記事内容を一部、限定公開いたします。全文は、末尾のリンク先(
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日本では相変わらず近視眼的なコロナ報道ばかりが目立つ。だが、もっと深刻な危機が覆っていることを日本人は知るべきだ。コロナ、中国、日本の将来について、エマニュエル・トッド氏に聞いた。
取材協力・同時通訳/大野 舞
聞き手・構成/編集部・大城慶吾、野川隆輝
エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)
歴史人口学者
1951年フランス生まれ。パリ政治学院修了、英ケンブリッジ大学で歴史学の博士号を取得。各国の家族制度や出生率、死亡率などに基づき現代政治や国際社会を分析し、ソ連崩壊やアラブの春、英国のEU離脱などを予言。著書に『帝国以後』、『最後の転落』(共に藤原書店)、『大分断』(PHP新書)など多数。
大野 舞(Mai Ohno)
取材協力・同時通訳
フランスのバカロレア(高校卒業国家資格)取得後、慶應義塾大学総合政策学部を卒業。一橋大学大学院社会学研究科修了。渡仏後は出版社やスタートアップ関連の仕事に携わり、独立。主な訳書にエマニュエル・トッド『大分断』(PHP新書)。同氏はじめ識者へのインタビュー実績多数。
これからも日本が日本であるために必要な立国の条件として、①人口問題に関連した女性の活躍と移民の受け入れ、②中国との向き合い方が難儀される中で国際社会における日本の振る舞い方や日本の核武装などについて述べたい。
①女性の活躍と移民の受け入れ
何度も繰り返すが、日本が今後も独立した国家であり続けるためには「人口減少」の解決に向けて今すぐにでも動かねばならない。
私の日本についての考察は、いつもこの問題に戻ってくる。具体的に言うと、「出生率の低さ」と「移民の拒否」の二つであり、この二つの問題は決して分けて考えてはならない。
日本の人口減少は将来の問題ではない。現在進行形の問題であり、要するに〝緊急事態〟なのである。そのためにも次の二つの方策をすみやかに実行すべきだ。
一つ目が、女性たちが出産後も安心して仕事を続けられる環境をしっかり整えること、そして国家は家族の負担を軽減すべきであるということだ。それは初等教育だけではなく、中等教育、高等教育も含める。そうすることで、人々があまり深く考え込まずに子どもを産むことができるようになるだろう。
女性の活躍が叫ばれながらも、なかなか実現できない大きな原因は、アジアの中でも程度は異なるが、女性の地位の低さがある。
例えば、フランスや北欧、米国や英国では女性の地位はアジアよりも高く、女性が働きながら子どもを産むことができる道を探ってきた。一方で、日本やドイツ、中国などの父権制の強い社会では女性の地位は低く、女性はキャリアか子どもかを選択せざるを得ない状況に陥っている。これは、民主主義であれ、共産主義であれ、政治システムとは関係がない。また、出生率というのは突き詰めると「男女の関係」の問題でもある。だからこそ、解決が難しいのだ。
私が日本を初めて訪れた1990年代初頭、出会った多くの日本人が出生率の低さについて問題意識を持っていた。それはとてもいいことだと思っていたが、2021年になってもなお、問題解決への動きは全く進んでいない。極めて残念である。
二つ目は、移民の受け入れである。長期的な観点から考えても、日本は移民を受け入れなければならない。
いや、すでに日本には移民が入ってきていると認識すべきなのである。世界銀行の純移動(編集部注:特定の時期、場所における移入民と移出民の差を表した人口統計学の用語)に関するデータに着目すると、これは人口比ではなく絶対値だが、フランスよりも日本への移入民の方が多いことが分かる(編集部注:仏・18万2636人、日・35万7800人、17年)。
日本人は「移民」という言葉へのアレルギーが強く、認めたがらない傾向が強いが、すでに日本は移民の受け入れ国家なのである。そして、企業や医療・介護の分野でも、労働力として、日本は移民を必要としている。したがって、現時点での問題は、日本に移民がやってくるかどうか、ではない。この移民の流れをいかに「管理」していくか、ということである。
移民の受け入れ姿勢には二つある。
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