2022年12月5日(月)

お花畑の農業論にモノ申す

2021年12月23日

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 受益者の負担が一切なく、全て公費で賄われるという枠組み自体、いかがなものか。ただ、それ以上に曲者なのは、この事業の実施要件である。要件の一つが「事業実施地域の収益性が事業完了後5年以内(果樹等は10年以内)に20%以上向上」なのだ。たとえ平場であっても達成は容易でないはずだが、中山間地となるとかなり難度が高い。

 中山間地で基盤整備する対象は、一部に果樹園や畑もあるにせよ、大半が水田になる。事業を経て高付加価値化を実現するとなると、コメ以外の作物を増やさなければならない。となると、野菜、花卉(かき)、果樹といった園芸作物を作らなければならない。しかし、園芸作物はコメ、ムギ、ダイズといった面積当たりの収益性が低い一方で機械化されている土地利用型作物と違い、面積当たりの収益性は高いが、概して手間がかかる。

 中山間地の特徴は、1枚の農地が狭く、人手が少ないということだ。この事業を使って農地1枚を広げれば、土地利用型作物を作る場合の作業効率は良くなる。が、事業要件である「収益性が20%以上向上」を満たすには、収益性の高い園芸作物を選ばざるを得ない。そうではあるけれども、園芸作物の繁忙期に必要な人手を集めるのは難しい。つまるところ、この事業は中山間地において絵に描いた餅に終わる可能性が高いのだ。

また耕作放棄地を生み出す懸念も

 なお、農水省農村振興局に問い合わせたところ、「事業実施前より収益性を上げられず、条件を満たすことができなかったところで、事業費の返還を求められることはない」という。「農業の生産性向上」「農家の所得向上」といった聞こえの良い言葉で予算を獲得したとも見える。

 この事業により、新たな農地を造成し、それに伴って耕作放棄地が生まれようとしている地域もある。条件の良い農地が整備されるため、農業者が既存の条件不利地での耕作をやめて、新たな農地に移るのだそうだ。

 農業経営として考えれば、合理的な選択といえる。だが、農水省は耕作放棄地の発生自体がよろしくないというスタンスなので、いったいどう考えるのだろうか。矛盾と負の遺産を抱えたまま、農地造成は続いていくようだ。

  
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