彼らはそこにもAIを活用している。「例えば表は、区画ごとに要素を抽出し、文字列としてつなげることはできています。ただ、文字列をそのまま並べても文章として成立しません。そこでテレビの番組表や飲食店のメニュー表など、さまざまな文書を機械学習し、さらに点訳文と原文の対応の良しあしもAIに学習させています。扱える文書のバリエーションを増やしながら、アプトプットの精度を高めていくことが現在の課題です」と藤巻さんはいう。
残る課題は、ビジネスを見据えたときに立ちはだかった。前述のプロコンでは「学生だからできた開発」とも言われていた。それを覆したい思いが彼らの中にあった。たしかに企業は市場が見込めないと容易に手は出せない。いくら困っていても少数派は後回しになるのが世の不条理だ。
「視覚障害者だけをユーザーと捉えるなら、たしかに市場は限られます。でも、視覚障害者にサービスを提供したい教育現場や行政、企業などにもニーズはあります」と板橋さん。実際に盲学校の教師などからもサービスの実現を切望する声を聞いていた。そこで視覚障害者の個人向けと、主に行政向けのビジネスプランを分けて検討し、事業性も評価対象となるディーコンで企業評価額5億円、投資額1億円の評価を得て、最優秀賞を受賞した。
作業よりも調査や議論
未知数の可能性に溢れる自信
これまでの開発を振り返り「当初に比べて、視覚障害者の方たちが点字をなぞるスピードが明らかに速くなり、指の動きがスムーズになりました。その様子が何よりの手ごたえです」と板橋さん。時には、視覚障害者に試してもらいながら、その場で改良するという開発スタイルで、常にユーザーと共に歩んできた。パソコンの前に座って作業する時間より、調査や議論のために人と話す時間が圧倒的に長いそうだ。
板橋さんは自社のコア技術を「二次元情報の文字起こしシステム」と言う。起業後、初のサービスとして提供を予定するのは、タブレットやスマートフォンで印刷物を撮影し、全自動で点字ディスプレイ(上下に動くピンが並ぶデバイス)に出力できるシステムだ。ただし、点字はあくまで伝達手段であり、音声出力など他のインターフェイスも視野に入れている。
TAKAO AIとさまざまな取り組みで関わり、記事冒頭の言葉を述べた白川寿子さんは、「障害のある人に手を差し伸べてくれる企業は、どうしても利益優先になる。しかし、彼らは自分にできることなら、何でもやってみようという気持ちで頑張っている。これからもてんどっくに限らず、世のため人のため、ピンと来たものに向かって精一杯頑張ってほしい」と語る。
学生業の傍ら、事業展開を進める彼らだが、不安の色は感じられない。「プロコンやディーコンでやってきたことは、ほとんど独学ですが、楽しみながらチャレンジしてきました。学内でも初の起業で、私たち自身も今後どこまで進化を遂げられるか未知数ですこれからも手と頭を同時に使いながら、新たな扉を開いていきたいです」。彼らの表情は人の役に立てる喜びと自信に満ちていた。
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