発覚すれば当然処刑
甘い罠でも忍び寄る
また、96年3月の台湾総統選挙戦においては、中国からの独立志向の強い李登輝総統有利の状況を受け、中国人民解放軍は同年3月8日から15日にかけて台湾海峡に向けてミサイルを撃ち込み、李総統への投票は戦争を意味することを警告した。このミサイル発射によって台湾の世論は緊張したが、李は台湾の人々を落ち着かせる意図で、「中国のミサイルは空砲だ」と発言し、ミサイルの脅威を打ち消したのである。
実際、この情報は正しく、台湾側が人民解放軍内に獲得した内通者からもたらされたものであった。しかし、李総統が人民解放軍の機密事項を表立って発言したことで、人民解放軍は部内に内通者がいることを悟ったのである。
中国側は台湾の国軍にスパイとして潜入させていた李志豪(りしごう)を使って内偵を進め、99年3月には劉連昆(りゅうれんこん)・人民解放軍少将が台湾側の内通者であることが発覚した。劉少将は逮捕され、同年8月15日にスパイ罪によって処刑されている。スパイとして処刑された軍人としては最高位であった。
ロシアほどではないが、中国の情報機関もハニートラップを仕掛けることがある。その中でも特異なものは、64年から20年近く続けられた「時佩璞(じはいはく)事件」である。京劇の男性役者であった時は、女性に扮してフランス人外交官、ベルナール・ブルシコにハニートラップを仕掛ける。ブルシコは時が男性とは気づかないまま関係を続け、時は2人の子だと言って混血の赤ん坊まで用意するほどであった。
そしてその間、ブルシコはフランスの外交機密を時に提供し続けたのである。その後、83年にパリで両者はフランス当局に逮捕され、ブルシコと時はともにスパイ罪で禁錮6年の有罪判決を受けている。その裁判の過程で、ブルシコは初めて自分のパートナーが男性であったことに気づき、衝撃を受けたという。
この「現実は小説より奇なり」を地で行くような話は、93年に『エム・バタフライ』として米国で映画化されている。
中国のハニートラップと言えば米国の連邦捜査局(FBI)を舞台にした陳文英(ちんぶんえい)事件もよく知られている。中国出身の陳は、台湾の中華民国のパスポートで米国に渡り、コーネル大学やシカゴ大学で学位を取得した後にFBIに採用されている。FBIでは中国情報担当だったが、上司と関係を持ち、そこから得た情報を中国の対外情報機関である国家安全部に流していたようである。
国家安全部は陳に多額の工作資金を流していたことから、陳は最初からスパイとしてFBIに入ったものと見なされた。2003年4月には国防機密を不正にコピーし、外国政府に漏洩させたとして起訴され、3年間の保護観察処分と1万㌦の罰金刑が課されている。
また同じく03年には上海日本総領事館に勤務していた通信担当の外交官が、女性絡みのスキャンダルで国家安全部から領事館の情報や暗号システムを提出するよう脅迫され、自死した事件も発生している。
■ 人類×テックの未来 テクノロジーの新潮流 変革のチャンスをつかめ
part1 未来を拓くテクノロジー
1-1 メタバースの登場は必然だった
宮田拓弥(Scrum Ventures 創業者兼ジェネラルパートナー)
column 1 次なる技術を作るのはGAFAではない ケヴィン・ケリー(『WIRED』誌創刊編集長)
1-2 脱・中央制御型 〝群れ〟をつくるロボット 編集部
1-3 「限界」を超えよう IOWNでつくる未来の世界 編集部
column 2 未来を見定めるための「SFプロトタイピング」 ブライアン・デイビッド・ジョンソン(フューチャリスト)
part2 キラリと光る日本の技
2-1 日本の文化を未来につなぐ 人のチカラと技術のチカラ 堀川晃菜(サイエンスライター/科学コミュニケーター)
2-2 日本発の先端技術 バケツ1杯の水から棲む魚が分かる! 詫摩雅子(科学ライター)
2-3 魚の養殖×ゲノム編集の可能性 食料問題解決を目指す 松永和紀(科学ジャーナリスト)
part3 コミュニケーションが生み出す力
天才たちの雑談
松尾 豊(東京大学大学院工学系研究科 教授)
加藤真平(東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授)
瀧口友里奈(経済キャスター/東京大学工学部アドバイザリーボード・メンバー)
合田圭介(東京大学大学院理学系研究科 教授)
暦本純一(東京大学大学院情報学環 教授)
column 3 新規ビジネスの創出にも直結 SF思考の差が国力の差になる
宮本道人(科学文化作家/応用文学者)
part4 宇宙からの視座
毛利衛氏 未来を語る──テクノロジーの活用と人類の繁栄 毛利 衛(宇宙飛行士)