2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2022年2月5日

 国も「高年齢者雇用安定法」を改正し、2021年4月からは企業に対して「70歳までの就業機会確保」の努力義務が適用するようにもなった。高齢者の社会とつながれる機会は増える傾向にある。

 さらに高齢者視点に寄り添ったアイディアも生まれている。シルバー人材センターと地域のシルバー人材をつなげる仕組みを実装するNRI社会情報システムは「70歳までの就業機会確保施策は企業や国の視点であり、リタイア後に社会との接点が急速になくなることでむしろ多様な選択肢をシニアから奪うことになりかねない」という課題意識を持つ。柔軟な働き方で社会のさまざまな人たちとつながりを持たせることを目的の1つとした提言『高齢者兼業副業モデル・シニア版パラレルワーカー』を打ち出す。

 パラレルワークというと、現役世代が副業もこなしていくというパワフルなイメージがあるが、たとえば再雇用で週2日就労しながら経験人脈を生かし、シルバー人材の仕事で週2日地域貢献し、ギグワーク(単発の仕事)で不定期にスキルを生かす、といったやり方だ。

 また、今後ネットネイティブが高齢化していくことから、「同一市町村内の住民から、同一市町村内のシルバー人材センターへの発注」という従来の閉じた形から、地理的条件にとらわれない仕事も生み出されていく。英国では高齢者がウェブ会議システムのZOOMを用いて若者に伝統料理づくりの方法を動画で配信するというサービスもあるという。

 労働を切り売りするのではなく、自分の伝えたいコンテンツを自分の好きな場所とタイミングで発信し、柔軟に収入を得られる。移動が困難な高齢者でも、地理的条件を超えたつながりを持つことができるわけだ。

 逆に、同じ地域にいるメリットを生かした新しい仕事も想定されている。防犯カメラなどの「機械に見守られている」ことに抵抗のある高齢者に対して、機械の危機検出状況に応じて見守り要員に連絡がいく仕組みなどだ。見守る方は、対象の高齢者と顔見知りの高齢者である。

 さらにNRI社会情報システムでは、同じ興味でつながるデジタル・リアルを組み合わせた高齢者コミュニティづくりも今後のミッションにしたいという。仕事と生きがいを同時拡大し、孤立を防ぐという効果が期待されている。

多様なつながりを持つのが次世代への宿題

 ちなみに、シニア世代の夫婦間では、自分だけでなく配偶者に対して長く働き続けて欲しいと考えているという調査結果もある(NRI社会情報システム調べ)。その背景には収入面だけでなく、夫婦ともにできるだけ社会的存在でありたいという願いや、健康面や生きがいなどシニア世代ならではの目的が見える。

 仕事を通じて地域コミュニティを形成していくという動きは、自治体やNPO法人によっても各地域でなされている。「仕事」という現役時代にやってきたことから派生される形であれば、都市部ではやや馴染みの薄い地域活動にコミットするという人生の選択肢が一気に増える可能性もあるだろう。

 目指すべきは、昔ながらの地域コミュニティの再生に限らない。高齢者が社会の中で活躍し、そのつながりが彼らを支え見守る存在へと変化できるしくみは多様であっていい。

 親世代が介護や看取りといった問題に直面する時、自身の「今からの」人生設計を見直すのは、ひょっとしたら親からの置き土産なのかもしれない。

 次回は、「介護の人手不足」について考えてみたい。

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