所得倍増計画は、自由な企業と市場の下で日本経済は運営されるべきという方針を確認するとともに、その方針の下で、日本経済は発展する力があり、かつ発展できるという自信に満ちた宣言である。また、自由の中には、貿易自由化も含まれていた。貿易為替自由化計画大綱は岸信介内閣の末期に策定されたものだが、池田内閣時にさらにテンポを速めて実施された。そして経済は倍増計画の通りに動いた。
アベノミクスも所得倍増計画だった
こう考えると、アベノミクスも所得倍増計画であったとも言える。もちろん、倍増計画のような顕著な成果をもたらした訳ではないが、アベノミクス発足後コロナ以前までの7年間(12~19年)の実質GDP成長率は年平均で1.1%、それ以前の7年間(05~12年)は0.2%であるから、低い成長率ながらも改善したのである。
多くの人がなぜか無視しているが、財政状況も所得分配状況も改善した(原田泰『デフレと闘う』中央公論新社、21年、277頁、279頁の図参照)。わずかであれ成長率が高まったので税収が増え、失業率が低下したことで所得がゼロの人が減少したからである。
現在行うべき所得倍増計画も、当時ほどの成果は期待できないが、過去の低成長率を多少は引き上げることができるだろう。それは、2%の物価目標の下での金融緩和政策、機動的で効率的な財政政策、規制緩和や自由な貿易政策で民間投資を喚起する成長戦略である。