今回のテーマは「ウクライナ危機と米中間選挙」である。ジョー・バイデン米大統領のウクライナ危機を巡る対ロシア政策について、ドナルド・トランプ前大統領が非難を強めている。仮にトランプ氏が現在大統領職に就いていたら、ウクライナ危機をどのように扱ったのか。また、バイデン氏がウクライナに固執する本当の理由は何か。ウクライナ危機は今秋の米中間選挙にどのような影響を及ぼすのか――。
トランプが今大統領だったら……
バイデン支持者とトランプ支持者の間に、ウクライナ危機について温度差が存在する。エコノミストと世論調査会社ユーゴブの共同世論調査(2022年2月12~15日実施)によれば、ロシアに対する経済制裁について、20年米大統領選挙でバイデン氏に投票した有権者の69%が「良い考え」であると回答したのに対し、トランプ氏に投じた有権者は55%であった。トランプ支持者はバイデン支持者よりも14ポイントも低い。
同調査ではウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟に関して、前回の大統領選挙でバイデン氏に投票した有権者の56%、トランプ氏に投じた有権者の38%が「良い考え」と答えた。こちらは18ポイント差があった。トランプ支持者はウクライナのNATO加盟について、バイデン支持者と比較すると消極的だ。
さらに、「欧州東部のNATO同盟国に米軍を派兵する」という声明に対して、バイデン氏に投票した有権者の60%が「良い考え」と回答した。一方、トランプ氏に投じた有権者は39%で、21ポイントも開いた。米軍の派兵に関しても、トランプ支持者はバイデン支持者と比べると否定的だといえる。
なぜ、ウクライナ危機を巡ってバイデン氏とトランプ氏の支持者間に顕著な相違が存在するのか。
米国の国境を気にかけないでウクライナの国境を気にしている
トランプ前大統領は1月29日、南部テキサス州での支持者を集めた大規模集会で、「バイデンは米国の国境を気にかけないでウクライナの国境を気にしている」と強調した。おそらくトランプ氏のこの発言が少なからず支持者に影響を与えているのだろう。トランプ支持者はウクライナ危機よりも、メキシコとの国境から米国に不法入国する移民問題を重要視しているのだ。
トランプ氏が大統領職に就いていたら、欧州の問題よりも中国および、米国とメキシコとの国境の問題に時間とエネルギーを注いだかもしれない。しかも、トランプ氏はロシア疑惑を否定したウラジミール・プーチン露大統領の立場に理解を示す発言をしたかもしれない。いずれにせよ、トランプ前政権は欧州と良好な関係を構築できなかったので、ウクライナ危機において結束を図ることは困難であっただろう。
戦争になっても困難な「米国の統一」
トランプ前大統領は2月12日、保守系のFOXニュースとのインタビューで「私が大統領のときロシア軍によるウクライナ侵攻は起きなかった。私はロシアに対して最も厳しい大統領であった。しかし、プーチンと私は互いに尊敬していた」と語気を強めた。
モーニング・コンサルトと米政治専門サイトポリティコの共同世論調査(22年2月12~13日実施)によると、ウクライナを巡る対ロシア政策に関するバイデン氏の支持率は40%で、不支持率は43%であった。不支持が支持を3ポイント上回った。トランプ氏は今後もバイデン氏の対ロシア政策を批判し続けることは間違いない。
バイデン大統領は2月18日、ホワイトハウスでの米国民向けのテレビ演説で「米国民は結束している」と述べた。だが、ロシア軍がウクライナに軍事侵攻した場合、米国民がロシアを「共通の敵」として一致団結するかは疑問だ。
前述の通り、ウクライナ危機についてバイデン支持者とトランプ支持者の間に温度差があるからだ。両支持者はマスク着用の義務化のみならず、ウクライナ危機でも分断を起こしている。
バイデン大統領は20年米大統領選挙において「米国の統一」を訴えた。もちろんバイデン氏はロシアとの軍事的衝突を望んでいないが、戦争による「米国の統一」は困難であると言わざるを得ない。