「政治的うまみ」が少ないウクライナ危機
ロイター通信とグローバル・マーケティング・リサーチ会社イプソスの共同世論調査(22年2月14~15日実施)によると、「米国が直面している最も重要な問題は何か」という質問に対して、1位が経済・雇用(22%)、2位が犯罪(11%)、3位が公衆衛生および医療保険制度(共に9%)であった。
しかも同調査では、「バイデン大統領は何を優先するべきか」という質問に対して、経済とコロナ対策が上位を占めた。米国民の優先事項は明らかにウクライナではない。ということは、外交的解決により危機的状況を脱しても、バイデン氏の支持率が急上昇しない可能性が高い。米国民はインフレ対策と新型コロナウイルス感染拡大の阻止を「成果」としてみるからだ。一方で、外交交渉が失敗すればバイデン氏のリーダーシップ能力が厳しく問われる。つまり、ウクライナ危機には「政治的うまみ」が少ないのだ。
見えてきた「バイデンイズム」
にもかかわらず、なぜバイデン大統領はウクライナに固執するのか。回顧録『約束してくれないか、父さん: 希望、苦難、そして決意の日々』(早川書房)の中で、オバマ元政権で副大統領としてウクライナ問題を担当していたバイデン氏は、権威主義者のプーチン大統領から民主主義の新興国ウクライナを守るために、武器供与を行うことが道徳的義務であったと記述している。バイデン氏は副大統領のとき、すでに「民主主義VS権威主義」という対立構図を描いていた。
バイデン大統領は2月15日ホワイトハウスでの演説で、ウクライナ危機はロシアとウクライナ両国を超える問題だという認識を示した。その上で「どの国民も自分たちの将来を決定する権利がある。一国が隣国の境界線を変更することはできない」と指摘し、「自由」という普遍的価値観を擁護するために公然と戦うと強調した。自由の擁護――これこそ「バイデンイズム」の真髄である。