なぜプーチンはトランプ政権時代に侵攻しなかったのか?
トランプ前大統領は保守政治行動会議での演説で、「ブッシュ政権下でロシアはジョージアを侵略した。オバマ政権下でロシアはクリミアを併合した。バイデン政権下でロシアはウクライナを侵略した。21世紀において私はロシアが他国を侵略しなかったときの唯一の大統領だ」と豪語した。確かにその通りだが、なぜプーチン氏はトランプ政権時代にウクライナに侵攻しなかったのか。
21年8月のアフガニスタン駐留米軍撤退と無関係ではあるまい。バイデン政権は同年11月からロシアがウクライナとの国境の部隊を増派したと明かした。
プーチン大統領はアフガニスタン駐留米軍撤退の混乱と、バイデン大統領の戦争回避の意思を「弱さ」と判断したのではないだろうか。一言で言えば、バイデン氏の足元を見たのである。
トランプ前大統領は同演説で、プーチン大統領がアフガニスタンからの米軍撤退を見て、ウクライナ侵攻を意思決定したと述べた。今後、トランプ氏は中間選挙に向けてアフガニスタンとウクライナを結びつけてバイデン氏を攻撃し続けるだろう。
プーチンまで利用するトランプ
バイデン支持者とトランプ支持者はプーチン大統領をどのようにみているのか。プーチン氏と習近平国家主席を比較してみよう。
エコノミストと調査会社ユーゴブの世論調査(22年1月29~2月1日実施)によれば、「ウラジミール・プーチン氏は強いリーダーですか?」という質問に対して、20年米大統領選挙でバイデン氏に投じた有権者の55%、トランプ氏に投票した75%が「はい」と回答した。トランプ支持者はバイデン支持者よりも「はい」が20ポイントも上回った。
同調査(同年2月5~8日実施)では習氏について、バイデン氏に投じた有権者の45%、トランプ氏に投票した53%が強いリーダーであると答えた。トランプ支持者は習氏よりもプーチン氏を「強いリーダー」と捉えている。
これに対して、米ワシントン・ポスト紙とABCニュースの共同世論調査では、「バイデン大統領は強いリーダーですか?」という質問に、有権者の36%が「はい」、59%が「いいえ」と回答した。「いいえ」が「はい」を23%も上回った。ウクライナ危機においてバイデン政権の外交努力が実らず、経済制裁を科してもロシアの軍事侵攻を抑止できない状況が数字に反映されているとみてよい。
トランプ前大統領はウクライナ東部2地域の独立を承認したプーチン大統領を「天才」と呼び、「賢い」と称賛した。プーチン氏と比較して、バイデン大統領のリーダーシップの欠如と無能さを強調する意図があったことは確かだ。
ロシアが軍事力でウクライナの領土を蹂躙し死者が発生しているのにもかかわらず、トランプ氏は両国の衝突を政治利用しているのだ。