2022年12月8日(木)

21世紀の安全保障論

2022年3月3日

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勝股秀通 (かつまた・ひでみち)

日本大学危機管理学部教授

1983年に読売新聞社入社。93年から防衛問題担当。民間人として初めて防衛大学校総合安全保障研究科(修士課程)修了。解説部長、編集委員などを経て、2016年4月から現職。

拡大する中露の結束強化

 中露の脅威、結束強化は、コロナ禍が続く21年、一気に加速した。象徴する場面は10月、中露両軍は長崎県の北方沖から秋田県西方沖に至る日本海の公海上で海軍合同演習を実施したことである。

 その後、ロシア海軍の艦艇5隻と中国海軍の艦艇5隻の計10隻の大艦隊が、「合同巡視活動」と称して、津軽海峡を抜けて太平洋を南下、房総半島沖から鹿児島県の大隅半島と種子島間の大隅海峡を通過するなど、6日間にわたってほぼ日本列島を一周した。日本に対する前代未聞の威嚇行動であり、この間、伊豆諸島周辺海域では、艦載ヘリの離着艦訓練なども実施している。

 結束強化は軍事面だけではない。7月、日本政府がロシアのミシュスチン首相による北方領土訪問に抗議したことに対し、中国外務省は定例会見で「世界反ファシスト戦争勝利の成果は、尊重され、順守されるべきだ」と主張したことだ。これは「第二次世界大戦の結果、北方4島はロシア領となった」というロシアの主張を認めた内容で、中国が公式に、北方領土問題でロシアの立場を支持したのは初めてのことだ。

 これには続きがあることを忘れてはならない。ロシアは〝返礼〟として、沖縄・尖閣諸島の問題で、これまでの中立姿勢を覆し、中国の領有権主張を支持する可能性がある。

 いまの尖閣危機の原点は、50年の節目を迎える沖縄返還(1972年)の1年ほど前に、当時の蒋介石台湾総統がニクソン米大統領に陳情した結果であることは、多くの外交資料や学術研究の結果などから異論を挟む余地はない。政府は近い将来に確実視される尖閣を巡る中露の結束に備え、施政権だけでなく、日本に尖閣諸島の主権が存在することを、米国が明確にするよう米政府との協議を急がなければならない。これらがウクライナ危機と中露の結束強化で浮き彫りとなっている日本の危機であり脅威だ。

「安保戦略」見直しのカギ

 政府は今年、外交・防衛の基本方針である「国家安全保障戦略」の見直しを進めているが、最大の焦点となるのは、中国をどう評価するかだろう。2013年12月に策定された現在の同戦略では、平和と安定に対する重大な脅威として北朝鮮を名指しし、「北朝鮮の核・ミサイル開発」への言及は8回に及んでいる。一方、中国に関しては、南シナ海における沿岸国との領有権争いに触れ、尖閣諸島周辺における活動を急速に拡大していると指摘しながらも、「中国の動向について慎重に注視していく」と記述しているにすぎない。

 防衛省元幹部は筆者のインタビューに「今の戦略は、中国を『脅威』と評価していない。在日米軍の削減、沖縄の負担軽減も記されているが、それは90年代半ばの安保環境が前提であり、今は米軍の増強が必要な状況だ。脅威ときちんと向き合い、それぞれの脅威に対して防衛力をどのように整備し、どう使うのかという戦略を明記しなければならない」と指摘する。まったく同感だ。

 脅威の筆頭は、前述した通り、「0対1250」に象徴される中国が保有する中距離ミサイルだ。多くは核搭載可能であり、その脅威は、22年の年明けから再び発射を繰り返し始めた北朝鮮の核ミサイルにも通じるからだ。

 だが、年始から続く北朝鮮のミサイル発射では、深刻な危機を放置し続けている現実も浮き彫りとなっている。ロフテッド軌道という高高度に発射されたミサイルや着弾直前に急上昇するという変則軌道のミサイルに続き、音速の10倍(マッハ10)という極超音速ミサイルも発射された。北朝鮮のミサイル能力は確実に高度化しているが、それを報じるニュースには、つねに「迎撃は困難」という言葉が続いている。

 「迎撃困難」とは「国民を守れない」と同義語だ。もはやミサイル技術の進展に比べ、ミサイル防衛の技術が追いつかない事態であることは明らかであり、飛翔するミサイルをイージスシステム中心のミサイルで撃ち落とす防衛システムは行き詰ってしまった。

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