2024年12月4日(水)

21世紀の安全保障論

2022年3月3日

 AUKUSは米英豪という強固な絆で結ばれた同盟国が、中露を抑止する目的で、まず米英が協力して豪州に原子力潜水艦の建造を支援し、将来的には米国の海軍力に豪州の原潜部隊を組み込み、インド太平洋地域における防衛態勢の強化を図るのが狙いだ。その背景にあるのは、中露が歩調を合せるように、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)など核搭載可能な原潜の配備を急ピッチで強化していることだ。

 中国は昨年4月、12基の大陸間弾道ミサイル(JL2)を搭載する最新鋭の戦略原潜(長征18号)を南シナ海に面した海南島に配備したほか、2020年9月に公表された「中国の軍事力」(米国防総省)では、中国海軍の艦艇数は米海軍(293隻)を上回る350隻に達し、保有する核弾頭は200発を超えることが報告されている。

 一方のロシアも昨年12月以降、オホーツク海に面した極東カムチャッカ半島にある太平洋艦隊の基地を強化し、新型原潜を順次就役させているほか、20年12月にはオホーツク海を潜航する最新型のボレイ級原潜「ウラジーミル・モノマフ」から4発の弾道ミサイル(SLBM)「ブラバ」の発射実験を行っている。

 原潜はディーゼルエンジンで駆動する通常型潜水艦に比べ、圧倒的に長期の潜航行動が可能で、しかもその隠密性から、搭載する核ミサイルは、移動式を含めた地上配備型の核ミサイルに比べて、残存性が著しく高い。南シナ海を拠点に次々と原潜を配備する中国、オホーツク海から太平洋への進出を目論むロシアを抑止するため、米英豪がAUKUSという安保枠組みを構築したことは当然だろう。

 AUKUSの発足に際し、バイデン米大統領は「21世紀の脅威に立ち向かうため、共通の能力を強化していく」と語ったが、私たちは、すでにインド太平洋地域において戦略核の覇権争いがはじまっていることを理解しなければならない。

「0対1250」

 中距離ミサイルの配備反対は、「盗人猛々しい」といっても過言ではない。なぜなら中国は2019年1月、米領グアムを射程とする中距離弾道ミサイルDF-26(最大射程4000キロメートル)の発射実験をテレビで公開したのに続き、同年7月と20年8月には、南シナ海の標的に向けて、対艦弾道ミサイルDF-21D(同1800キロメートル)など計10発を発射している。このほか19年10月の軍事パレードで、極超音速滑空兵器(HGV)を搭載する弾道ミサイル(同2500キロメートル)が公開され、昨年8月には、中国の衛星軌道上でHGVの発射実験を行っている。中国こそが、中距離(同5500キロメートル以下)の各種ミサイルを次々と開発、配備しているからだ。

 実は中距離核戦力(INF)を巡っては、冷戦時代の1988年、米ソは「INF廃棄条約」を発効させ、核兵器の運搬手段となる射程500~5500キロメートルの地上発射型中距離ミサイルをすべて廃棄した。条約は冷戦後も継続し、米国はいまもこの射程のミサイルを配備していない。

 この間、条約の対象外だった中国は2000年以降、急伸する経済力を背景に、中距離の巡航・弾道ミサイルを次々と開発した。この状況に危機感を持ったトランプ米大統領(当時)は18年10月、INF条約からの離脱に言及、条約は19年8月に失効したが、米議会報告などは、現時点で中国が保有する中距離ミサイルは1250発に上ると見積もっている。

 「0対1250」――。これが米中の中距離ミサイルの戦力比だ。しかも中国の中距離ミサイルは日本全土をほぼ射程に収めている。ここ数年の新聞各紙の報道によれば、中国内陸部のゴビ砂漠やタクラマカン砂漠には、移動する米空母の模型や在日米軍の横須賀、嘉手納基地などを模した射爆場が作られ、衛星写真からは、ミサイルがピンポイントで戦闘機大の標的に着弾した跡が確認されている。

 共同声明で中露が発したメッセージは、インド太平洋地域の平和と安定を目指す米国と日本、豪州などの同盟国の行動を真っ向から否定する内容であり、その最前線に位置する日本への警告でもある。


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