ロシア軍のウクライナ侵攻後、米国との冷却した関係が一気に噴出した。UAEは現在、国連安全保障理事会の非常任理事国としての立場にあるが、2月25日のロシア非難の安保理決議の採択で、バイデン政権の強い説得にもかかわらず中国、インドとともに棄権してみせた。
決議案はロシアの拒否権で葬られたが、この行動は冷たくされてきたバイデン政権へのあからさまなメッセージであり、〝報復〟だったと見られている。ロシア軍の無謀な攻撃が激化するにつれ、3月2日に行われた国連総会のロシア非難決議の採択では、兄弟分のサウジとともに「共同提案国以外の国」として賛同し、賛成した141カ国に加わったが、米国との溝は深まった。
サウジも肘鉄
世界のエネルギー業界で焦点となったのは「石油輸出国機構(OPEC)プラス」の中で指導的役割を持つサウジの動向だ。ウクライナ戦争で石油や天然ガスの価格が急騰している中、世界第2位の産油国サウジが価格引き下げを目指すバイデン政権の強い要請を受けて増産に踏み切るかどうかに注目が集まった。
だが、サウジは3月2日に行われた「OPECプラス」の会合で、「生産の上限維持」を主導し、米国の石油増産の要請を事実上拒否した。サウジは現在、日量約1000万バレルを生産しているが、実際には1200万バレルの生産能力がある。バイデン政権にはサウジの増産で世界的な石油価格の上昇を抑えたいとの思惑があったが、「サウジが肘鉄を食らわした」(専門家)格好だ。
サウジ側にしてみれば、世界最大の産油国である米国がシェール石油の増産を自ら行わず、他国に増産の責任を押し付けているという思いが強い。その裏には、サウジを牛耳るムハンマド・サルマン皇太子とバイデン大統領との確執があるのは間違いないところだろう。
バイデン大統領は就任以来、ムハンマド皇太子を冷たくあしらってきた。UAEに対するのと同様、サウジのイエメン戦争への軍事介入を批判し、同戦争に関わる軍事支援を停止した。皇太子がトランプ前大統領自身や義理の息子のクシュナー元大統領上級顧問と親しかったことが一因にあるとの見方が強い。大統領は皇太子を相手にせず、必要な時にはサルマン国王と連絡を取った。
そうした皇太子がバイデン大統領に快い感情を抱いていなかったのは想像に難くない。
サウジがウクライナ戦争による石油価格の急騰を軽減するため、増産を求めた米国の要請を拒否したのはUAE同様、バイデン政権のこれまでの扱いに対する〝報復〟だったのではないか。皇太子は3日、ロシアのプーチン、ウクライナのゼレンスキー両大統領と電話会談し、停戦の仲介を申し出たのはプーチン非難に躍起になっているバイデン氏に対する当てつけの感がある。