2024年11月22日(金)

教養としての中東情勢

2022年3月8日

態度を急変させたイラン

 中東絡みで忘れてはならないのはウクライナ戦争がイラン核合意の再建協議に与える影響だろう。昨年4月にウイーンで始まった米国とイランの間接協議はこの2月、「対立点は残り3%で、後は双方の政治決断次第」(交渉担当筋)のところまで到達していた。

 イランは当初①米国による経済制裁の全面解除、②将来的に米国が合意から離脱しない保証――をかたくなに要求し、対立してきた。しかし、イラン側が一部の制裁が残ることを了承し、米国がイランの最高指導者ハメネイ師の関連団体への制裁を解除することで双方が歩み寄った。米国が弾道ミサイルの開発制限やテロ支援の停止などの要求を取り下げたことも大きかった。

 ところがイランの交渉代表のバゲリ外務次官が2月末に政治決断を仰ぐためにテヘランに帰り、戻ってから態度が急変した。米紙などによると、バゲリ氏は革命防衛隊の「テロ指定」の解除や、核燃料の生産をどう減少させていくかをめぐって要求をエスカレート。双方が協議打ち切りを示唆するまでに悪化した。

 イランが強硬姿勢に転じたのはウクライナ戦争という新たな状況の変化がある。ロシア軍の侵攻で米露の対立が決定的になり、これまで核合意の当事者として協議をまとめるよう圧力を掛けてきたロシアが米国に反発し、イラン側の主張を支持する見通しが出てきたとの判断があるようだ。イラン側が「土壇場でもう一押してみる」と考えた可能性がある。

 背景にはバイデン政権が石油価格を引き下げるため、イランの石油輸出の増大もやむなしと考えているフシがあり、イラン側はそうした足元を見透かしているのではないか。イランが輸出を本格化させれば、価格が10%下落するとの試算もある。イラン核合意の再建協議が決着するか否かはウクライナ危機と密接にリンケージしている。

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