2024年4月24日(水)

食の安全 常識・非常識

2022年4月28日

農水省は、各国の基準値を調べ上げ情報提供

 多くの国で輸出入において基準の違いが違反を産んでいます。そのため、日本では農水省が対策情報をウェブサイトで提供しています。輸出先の残留基準をあらかじめ調べ、輸出向けに栽培する作物については、日本では使用可の農薬だとしても使わないようにするのです。使わなければ、輸出先でも残留基準を超過することはありません。

 農水省のサイトで、コメやりんご、ぶどう、いちご、お茶など15品目について、国際基準と19カ国・地域の残留基準が調べられ、表として提供されています。いちごであれば約300の農薬成分の一つ一つについて、各国の基準が示されています。大変なデータ量です。それに、残留基準は頻繁に変わってゆきますので、更新作業も手間がかかります。

 2021年の農林水産物・食品の輸出額は1兆2385億円。国のほか県、JAなどもトラブル回避に向けて生産者への情報提供に力を入れています。

日本国内向けいちごを台湾に持って行ってしまった

 しかし、残念なことに台湾で違反が続発してしまいました。台湾でいちごに使用を許された農薬を使った〝台湾仕様のいちご〟を輸出すべきだったのに、そうではなかったようです。輸出に関わった業者などが日本国内向けのいちごを調達して台湾へ持って行ってしまったのではないか、とみられています。

 日本で逆の事例が起きたことがありました。2000年代初頭、中国産食品が日本で大量に残留基準超えとなり、中国産が危険視されました。

 発がん物質が使われ残留するなど実際のリスクが懸念される事例もありましたが、それがすべてではなく、日本と中国の残留基準の違いによるものも少なくありませんでした。その後、日本の商社や食品メーカーが中国の生産者と情報交換したり指導したりして、中国で日本仕様の栽培を行い、日本の残留基準に合致した中国産食品を日本に輸入するようになり、基準超過は激減しました。

 厚労省の輸入食品監視統計では、中国産の違反率は10年以上、輸入食品全体の平均違反率を下回っています。しかし、「中国産は危ない」という印象は消えません。

 同じことが今、台湾で起きているのです。そして、興味深いことに日本国内で「国産は危ない」「農薬は危ない」と言いたい人たちに、こうした違反事例が主張の根拠として利用される、というねじれ現象も起きています。

国産は安全、高品質という思い込みはないか?

 以前にりんご輸出で苦い経験をした青森県は、現在は輸出が始まる前には関係者を集めた研修会を開き、基準の違いや前年の違反事例など細かく情報を提供して対策を求めています。産地はかなり気をつけて輸出仕様の栽培をするようになりました。しかし、すべての関係者がこの複雑な残留農薬基準の問題を理解しているわけではありません。その結果、安易な国内調達による輸出が違反事例につながります。

 どの国も相互に同じ問題を抱え、輸出相手国仕様の栽培・生産をした食品を輸出して違反を減らそうとしています。なのに日本はまた、同じ違反を繰り返してしまいました。

 国内関係者に「国産は安全、高品質。だから、細かいことは気にしなくても大丈夫」という思い込みはないでしょうか。いくら国が輸出戦略に力を入れても、こうした違反が続くと足元から信頼が崩れ落ちてしまう。今回のいちご問題は、関係者のそんな甘さを浮き彫りにしているのです。

(本記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

<参考文献>
農水省・各国の食品安全関連規制
農水省・諸外国における残留農薬基準値に関する情報
厚労省・食品中の残留農薬等(Q&Aが掲載されており、Q4で「日本と海外の農薬の残留基準値が異なるのはなぜですか?」という質問と回答が読める)
青森県・令和3年産台湾向けりんごの輸出に係る研修会資料
台湾の残留基準
国立医薬品食品衛生研究所・各国の農薬・動物用医薬品の残留基準(MRL)リンク集
国立医薬品食品衛生研究所・輸出国における農薬等の使用状況等に関する調査
米国生産者団体による台湾の基準値変更に関するニュース

   
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