2022年11月29日(火)

食の安全 常識・非常識

2022年4月28日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。(記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

食品ごとの残留基準値の高低は、安全とは関係がない

 実際のところ、国別の残留基準値の比較は、科学的にはまったく意味がありません。安全性を検討するときに重要なのは、まずは許容1日摂取量(ADI)です。ヒトがその物質を一生涯にわたって毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと考えられる1日当たりの摂取量のこと。日本では、内閣府食品安全委員会が各種のデータを検討したうえで、農薬成分一つ一つについてADIを設定しています。

 1日にさまざまな食品を食べた時、その農薬のトータルの摂取量がADIの80%を超えてはいけない、というルールとなっています(残りの20%分は、水や環境中から摂取すると想定していますが、実際には、水や環境中からそのような量を摂取することはありません)。重要なのはトータルの量。一つ一つの食品の残留基準が高いか低いか、というのは安全性には関係がないのです。

 また、24時間またはそれより短時間の間に摂取しても健康への悪影響がないと推定される量(ARfD:急性参照用量)と摂取量の比較も行われ問題がないことが確認されます。

農薬は、使ってよい作物や使い方が厳密に決まっている

 では、トータルの摂取量をどこでコントロールするか? 農薬は、製品ごとに使ってよい作物や使い方、収穫の何日前まで使ってよいかなどが厳密に定められています。使ってよい作物(食品)は、栽培試験の結果をもとに、残留基準値として数ppmとか数十ppmというような高めの数値が設定されています。使うのですから残留があるのは当たり前です。

 一方、使われない作物(食品)は日本の場合には主に0.01ppmという基準が設定されています。海外で使われている場合は、外国政府等からインポートトレランス(海外の使用状況等に合わせた基準値)を設定するように申請があり、数値が決定されます。

 そのうえで、各食品の摂取量調査をもとにその農薬の1日のトータルの摂取量が推計されます。この仮の推計でADIの80%を超えるようであれば、使ってよい作物を減らすなどの調整が行われます。

 こうした詳細な作業の結果、各農薬が正しく使われていれば摂取量はADI、ARfDを下回りヒトが食べる場合の安全上の問題は生じない、ということになるのです。

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