2024年4月19日(金)

知られざる高専の世界

2022年5月2日

 スナノミ感染症プロジェクトを担当するJICA九州センターの山崎正則調査役は「スナノミ症という日本国内のみならず、ケニア国内でさえも必ずしも認知度が高くない『顧みられない熱帯病』について、高専生が関心をもったことに『まさか』と驚いた。同時に、プロジェクトに携わる身として非常に嬉しかった」と話す。

 現地を視察した人の話からは、治療薬や殺虫剤散布などの手段はあるものの、対策が十分に行き届いていない現状が見えてきた。「薬剤の扱いに慣れていない人も多く、沿岸部ではココナッツオイルを患部に塗り、ノミを窒息させているようだ。だが、山間部ではそれも難しい。予防のために日本からも靴が寄付されているが、文化的に靴を履く習慣が定着しないなどの問題点もある」と森田さんは話す。

ケニア在住者とのミーティングを行い、現地に即した解決策を検討した(写真=佐世保高専提供)

 もっと手軽に、誰でもできる方法はないか。「そうだ! ファインバブルでノミを吸着すれば除去できるんじゃない?」。アイデアはすぐに固まった。さらに、通常の泡と比べ、水中に溶存する時間が長いことから、一度ファインバブルを発生させた溜め水でも一定の効果持続が期待できる。こうした特性は、すでに医療器具の洗浄や除菌などにも活用されている。

 問題は、どうやってファインバブルを発生させるのか、その手段だ。既存の装置は電気で動かすものが主流で、ケニアでは必ずしも使えるわけではない。いくら高性能でも高価な装置の導入は現実的ではない。現地に即した解決策でなければ、継続可能な治療には結び付かない。「電気を使わず、安価で、専門知識もいらない簡単な操作性で、手軽に持ち運べる装置はないか──。こうなったら、自分たちで作るしかない」。だが、機械工学科の学生とはいえ、まだ研究室に配属されていない彼女たち。手探りの挑戦が始まった。

 目を付けたのは、手動の農薬散布機だ。ポンプなどの機械に頼らず、ノズルで高速噴射する際の圧力を利用して液体や気体を排出する「エジェクター」が内蔵されている。そこで眞﨑さんが設計を担当し、既存のエジェクターを参考にノズルの内径と外径のサイズなど細かく変えながら、3Dプリンターでエジェクターを試作した。さらに中島さんを中心に発生させた泡の評価法も立ち上げた。水槽にレーザー光を照射し、エジェクターから噴射した泡の様子を撮影。きめ細かな泡が大量に発生するほど光が散乱することを利用し、画像で評価を行っている。

水槽にレーザー光を照射し噴射した泡の様子を撮影。きめ細かな泡が大量に発生するほど光が散乱することを利用し、画像で評価を行っている(写真=佐世保高専提供)

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