2024年4月24日(水)

知られざる高専の世界

2022年5月2日

理想の装置を作成し
ケニアに届けられるように

 この取り組みを発表したGCON2021で「ファインバブルLab.」は視聴者賞を受賞した。彼女たちのプレゼンは、より多くの人がスナノミ症を知るきっかけとなった。そして現在も開発は続いている。「過去にもビジネスプランなどを発表するコンテストに出場してきたが、アイデアで終わることが多かった。今回は実際にケニアに届けられるよう、理想の装置を形にしたい」と意気込みを見せる。装置の単価も2000円程度に抑えられる見込みだ。

 長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科の神谷保彦教授は「すでに行われている、炭酸ナトリウムと過酸化水素水を使った治療の際に、ファインバブルを発生させた水を併用することで、より効果が高まるのではないか」と期待を寄せている。また、現地では衛生的な水を得ることも容易でないため、ろ過装置を付けることも検討しているという。少量の水で、薬剤の使用量も最小限に抑えられれば、環境負荷の低減にもつながる。

 一方、溶液のpHや表面張力を工夫することで、ファインバブルの気泡サイズはさらに細かくなることが知られている。そうすればノミの吸着・除去効果もさらに高まるだろう。水処理施設が十分に発達していない場所でも使用できるよう、環境負荷の少ない物質で、かつファインバブルの効果を最大限に引き出す溶媒の開発が今後の課題の一つとなっている。

 前出のJICA九州の山崎氏は「JICAとしても国内外の社会課題を解決していくために、学生を含めた幅広い市民参加のもと、新しいアイデア・技術を活用したいと思っている。従来の国際協力関係者では思いつかないような若い世代・高専生ならではの柔軟な発想・斬新なアイデアに期待している。こうした力も借りながら、国内の多様な関係者が携わる新しい国際協力の形を作っていきたい」と意気込み、「開発途上国の社会課題の解決に挑戦する高専生の姿が、日本国内の多くの人たちに刺激を与え、新しい国際協力のあり方を切り開いていくきっかけになること、また、国際協力の担い手としての高専生の今後の活躍にも期待したい」と話す。

 一連の活動を通じて、井手さんは「スナノミ症をきっかけに世界に目を向けるようになった。自分たちの技術でどうアプローチできるのか、ものづくりで人の役に立ちたい」と話す。高専生として、より専門性を高めていく残りの2年間、彼女たちの独自技術はどのように進歩していくのだろうか。期待せずにはいられない。

 
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プーチンによる戦争に 世界は決して屈しない
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