2月26日の第4回日本経済再生本部で経産大臣に対して出された総理指示には、「エネルギーコスト削減対策に関して、政府一体となって電力システム改革を推進する」とある。自由化による競争は電気料金の低下をもたらすだろうか。
競争政策は競争相手を生み出せるかどうかが全てである。電気料金の大半を占めるのは発電所や送配電設備の建設・運転費用である。
まず発電所建設について述べると、建設費は莫大でしかも計画から稼働まで最低でも8~10年程度を要する。筆者は経産省在籍時に、1995年の卸電力自由化と99年の大口電力小売自由化に携わったが、この2つの自由化でも新しく発電所を造った新電力は数社だけだったのに、さらに期待収益の低い小口向けで発電部門に新規参入が続々と現れるとはとても思えない。
目下、電気各社が申請している電気料金値上げに対し、有識者委員会が「査定」を行い、値上げ幅を圧縮するよう電力会社に指示しているが、自由化で料金規制を撤廃するとこの手法はとれない。新規参入者がなければ、規制なき電力会社が10社現れることになってしまう。報告書の言う競争原理を導入すれば、値上げ競争が起きることを心配しなければならないのだ。
当面の日本の将来を見渡せば、人口が増えて電力消費量が増え、エネルギー調達が多様化し、あるいは国内に資源が豊富に見つかると想定する人はいないはずだ。そのような将来であれば、料金規制を撤廃し競争にさらすことで、電気料金が低下する可能性はなくもない。
しかし、これからの日本は少子高齢化で高度経済成長は見込めない。税と社会保障の一体改革が進められているが、消費税は10%というレベル以上に上げる必要も出てこよう。その他の生活コストはできるだけ下げていかなければ持続できない。電力コストはその一番手である。新規参入が見込めないなら、自由化するのではなく、むしろ引き続き小口電気料金を規制し、総括原価方式を継続するほうが電気料金を抑制できると考えるべきである。
燃料費を減らすには
次に、発電所の運転費用を考えると、その大部分を占めるのは燃料費である。これはほぼ全量輸入だから調達規模で決まることが多い。調達規模を小さくして、産油国との交渉力が強くなるとは考えられない。
システム改革委の報告書は、自由化と発送電分離を行うことで、発電部門と小売部門に競争を起こそうとしているが、プレイヤーが小規模に分割されれば燃料調達規模は当然小さくなる。単位発電量あたりの燃料費はむしろ上昇するだろう。