さらに16年3月までに順次成立、施行された安全保障関連法によって、放置すれば日本の危機となる「存立危機事態」という新たな概念が設けられ、同事態に際して集団的自衛権の行使が可能となったほか、平時から自衛隊と共同で警戒監視や訓練を行っている米軍の艦艇や航空機が警護の対象となった。『防衛白書』(最新版)によると、自衛隊が米軍の艦艇や航空機を警護した回数は、20年度には25回に上っている。
このほか、離島防護や奪還を想定した陸海空自衛隊と米海空軍、米海兵隊による実働演習もさまざまに繰り返されている。より強固な日米連携を目的に、九州方面に離島を想定した新たな演習場を確保する動きなども伝えられており、この10年で自衛隊と米軍の一体化は劇的に進んでいる。
「強靭化」に相応しい経費負担になるのか
最後は中段に位置する「受け入れ国と国民の協力」だ。受け入れ国の協力で真っ先に挙げられるのは、Host Nation Support(HNS=接受国支援)と表記される「在日米軍駐留経費負担」だ。
日米同盟は当初、日本が基地(モノ)を提供し、米国は兵力(ヒト)を提供するモノとヒトの関係であったが、日本の対米貿易黒字や米国の財政悪化により、1978年から日本が駐留経費の一部を負担する、いわゆる思いやり予算がスタートした。「安保ただ乗り」という米国の対日批判をかわすことが目的でもあった。
ただし、62億円の支出で始まったHNSは、99年には年2756億円まで膨らみ、基地や米軍住宅の光熱水費の一部まで含まれていることへの国民の批判も高まり、段階的に削減されてきた。同時に、自衛隊と米軍との一体化が進み、「モノとヒト」から「ヒトとヒト」との関係に変化する中で、HNSの見直しも進められてきた。
その結果が2021年12月の日米合意で、22年度から5年間は年平均2110億円、総額1兆円超を支出し、中国を念頭に駐留経費の使途を改め、「訓練資機材調達費」という日米共同訓練に関係する支出項目なども新たに設けられている。
林芳正外相は記者会見で「自衛隊の即応性、米軍との相互運用性の向上を含めて同盟を一層強化する基盤になる」と説明、思いやり予算という俗称を、今後は同盟強靭化予算と呼ぶとした。「強靭化」という名に相応しい同盟の強化、抑止力の強化につながる使途となるのか、納税者として注視することも重要な役割だ。
不十分な国民の協力
問題は国民の協力だ。HNSを支出することで、国民は十分に協力しているという意見もあるかもしれない。だが、1991年の湾岸戦争で、日本は中東にエネルギー資源の多くを依存していながら、130億ドル(国民1人当たり約1万円)を拠出して済まそうとし、国際社会から激しい非難を浴びた。それを教訓として、私たちひとり一人が平和や安全に対してカネではない対価を支払うという姿勢を持つことが必要ではないだろうか。
その一つが、緊急時に米軍が使用する民間空港や港湾の調査や選定が進んでいないことだ。発端は97年に「日米防衛協力の指針」(ガイドライン)が、朝鮮半島有事を念頭に見直され、自衛隊が米軍に輸送協力などの後方支援を実施し、米軍の民間空港・港湾使用が可能となったことだ。ただし、軍用の輸送機が頻繁に民間空港を離発着するためには、事前に滑走路の厚みなど耐重性を調査しておかなければならず、港湾にしても、船底にセンサー類の多い海軍艦艇が出入港するには、海底の形状や水深を綿密に測量する必要がある。
しかし、国内の民間空港や港湾の多くが、「軍事目的に利用しない」といった合意を地元自治体などと結んでいるほか、運輸関係の労働組合には、米軍や自衛隊への協力を拒否する姿勢も強い。当時は「周辺住民の同意」、「空港や港湾管理者の同意」が必要との理由で、調整すら行われなかった。