2024年7月16日(火)

ザ・ジャパニーズ3.0(昭和、平成、令和) ~今の日本人に必要なアップデート~

2022年6月30日

 コロナをきっかけにして、働き方が大きく変わった。最も大きな変化は、オンラインを活用した在宅勤務が所与になったことだ。仕事というものは、「定時に会社に出社して対面で行うもの」という誰も疑わなかった概念を覆した。NTTが3万人の社員を全て在宅勤務とし、出社は出張扱いとしたことも近時の大きな話題であるが、働き方の選択肢が、「出社vs在宅」×「対面vsオンライン」と4象限に広がった。これは出社・対面の1象限から選択肢が4倍に広がったわけで、『ドラえもん』(小学館)の「どこでもドア」を手に入れたに等しい革命的な変化だと私は考えている。

 そんな中で、副業への考え方も急速に変わってきている。これまで、「本業に支障が出る」、「企業秘密が漏洩する」等の理由から、多くの企業で副業が禁止されてきた。しかし昨今は、「本業に相乗効果のある副業を許可することで、従業員のスキルアップやマーケティングなどの営業活動につなげたい」との考えから、一転して副業を解禁する企業が増えているのである。私はこの流れがコスト・プッシュ型のインフレへの防衛のみならず、日系企業が競争力を取り戻すのにプラスに働くものだと注目している。

 大企業ほど副業に対して慎重とのことであるが、これはある程度理解できる。大企業が大企業である所以は、規模の大きさとそれに呼応する人材の多彩さである。大企業はその業界の勝ち組であり、ノウハウや新しいビジネスのアイディアを内部に囲い込みこそすれ、外部との連携は基本的に行わないのが常だからである。しかし人材の宝庫であっても、今の世の中は変化が速すぎて、新しいビジネスのアイディアが社内から出にくくなっているのも事実だ。スマートフォンを例にすれば、その登場でコミュニケーション手法、エンターテイメントの範囲、メディア・広告のあり方、金融の利便性などが劇的に変化した。

 この変化を10年前に予見できた人はどれだけいるであろうか? デジタル・トランスフォーメーション(DX)によるビジネスの変化の大きさを比喩的に言えば、未来が一次関数の直線の先ではなく、指数関数の曲線の先に出現するようになったということだ。急勾配の曲線の先にある事業環境の予見は難しくなり、社内に蓄積したノウハウや英知を持ってしても、新しいビジネスモデルの構築が困難になっているのである。その意味で、DXの時代において従業員に外部との接触を持たせることは、新しい視点を持ちイノベーションを起こすための必然の取り組みと言えるだろう。

積極的に副業を推奨する大企業

 そんな中、大企業でも積極的に従業員に副業を行うことを推奨している先も出てきている。ユニークな取り組みをしているのは、三井住友海上火災保険だ。業務出向や副業などの従業員の外部での経験を、課長に昇進するための前提にするという。出向や副業などで得た知見や人脈を社内で生かし、新たな事業の開発を促すことを企図した施策らしい。これに関しては、やはり日経新聞が本年1月26日の記事で取り上げているのであるが(『課長昇進、出向・副業経験を前提に 三井住友海上 新事業の開拓促す』)、この施策の理由を「主力事業の成長が頭打ちになっており、多彩な人材の育成や外部との連携強化が課題」と説明している。DXの進行と、コロナにより「どこでもドア」を手にいれた現代を如実に反映した施策であると思う。

 ただ副業解禁といっても、即座にできるものではない。どうしても従業員の間で行動力の差は出てくる。また昇格を前提とするのであれば、副業の質も当然問われることになる。業務出向であれば、人事異動の一環として会社側が主導できるが、副業はあくまで従業員のイニシアチブによるものだ。そしてその行動力やセンスを評価しようというのだから、ある意味、従業員にとってシビアな制度だとも言える。つまり副業ができない人は、インフレを防衛するような追加的な収入機会を得ることができないばかりではなく、本業での昇格・昇給にも遅れが生じてしまうということだ。

 副業が所与となり、しかもその内容やパフォーマンスが本業での評価にも影響するような社会では、人々の働き方は根本的に変わってくる。様々なことに興味を持ち、行動し、人間関係を築き、本業と副業の間のシナジーを実現できるような人が求められる人材像になってくるのだ。採用の基準も変わるだろうし、就職を目指す人たちの大学での学びや課外活動の質が大きく変わってくるだろう。大学での学びが変われば、その大学の求める学生の質が変わり、それが高校・中学の学びに影響してくる。


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