2024年11月22日(金)

ニュースから学ぶ「交渉力」

2022年7月5日

 正しい主張であったのかは定かではないが、サイレント・マジョリティの存在への配慮を常に忘れてはならないことは間違いない。ときに、選挙前の報道内容と実際の選挙結果が乖離することがある。テレビや新聞報道で登場するコメンテーターや評論家の考えが、必ずしも世論を要約したものではないということを示している。

求められる主張を受け止めた上での伝達力

 したがって、広く視野を持ち、関係する人々それぞれの立場からどのように見えているかを意識して分析する能力(視点獲得能力)が、政治家の資質として特に重要になる。一つの政策を実施するにあたり、それによって仕事が増えて恩恵に授かる人もいる一方で、仕事がなくなってしまう人もいるかもしれない。

 例えば、財政緊縮と言えば聞こえはいいが、それは公共工事が減らされることを意味するため、公共工事に従事する事業者にとっては歓迎できないだろう。このように、さまざまな利害関係者の視点に立ち、その立場であればどのように考えるかを意識することで、相手の話を掘り下げる適切な質問が可能になり、結果として対話力向上につながる。

 互いの異なる主張を前提とした「対話」は、その違いを乗り越えるために、前回「ウクライナ戦争はキューバ危機の交渉力を生かせるか」で伝えた相手に対する「価値理解」の理念が重要になる。加えて、「アサーティブネス」を実践できるかどうかが鍵を握る。

 これを日本語に訳すと「お互いを尊重した主張」ということになる。相手の考えを受け止めつつ、自らの主張もしっかりと相手に伝えることを意味している。

 日本人は、言いたいことがあっても言葉を飲み込んで我慢してしまうことが多いと言われる。文化的背景などにより共有するものが多く、言わなくてもわかってくれる、というハイコンテクストな社会特有の風潮もあいまっているのかもしれないが、ダイバーシティが進み多様な考え方を持つ人たちが混ざり合う現代において、相手の考えを理解し、自分の考えもしっかりと言葉で伝えるアサーティブネスが対話を成功させるポイントになる。

演説で使われる3つのストーリー

 対話力に加え、政治家に特に求められるコミュニケーション能力の一つとして「説得力」が挙げられる。

 人を説得する上では相手の納得を得なければならない。こうした力については、アリストテレスが活躍した古代ギリシャ時代から「修辞学」と呼ばれる学問として研究されている。現在では「レトリック」とも言われ、人を騙すための技法とみなされることも多いが、本来の修辞学が目指していたのは、ロゴス(論理)、エトス(信頼)、パトス(情熱)という3つの要素をもって人を説得する力である。

 この、人を説得して納得させる力を最も発揮したと言われているのが、2008年米国大統領選挙で当選したバラク・オバマ氏である。周知の通りオバマ氏は、米国初の黒人大統領である。日本では想像できないほどに米国では黒人に対する差別が残っている中で、黒人の米国大統領就任は、夢物語とも言える出来事だった。一体、オバマ氏はどのような説得力によって当選を果たすことができたのだろうか。


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