ソ連崩壊後の1990年代にロシアを苦しめた出生率の低下と人口減少が、再び深刻化する様相を見せている。新型コロナウイルス禍でロシアの人口は昨年、ソ連崩壊後で最悪の年間100万人以上が減少。さらにウクライナ侵略が長期化するなか、ロシアはプーチン政権発足後で最大の経済の落ち込みが見込まれており、社会不安の高まりが女性の出産を抑制すると予想されているためだ。
プーチン政権は子供を〝10人以上〟生んだ女性に「英雄」称号を与えるとしたが、効果は見通せない。すでに国の頭脳となる若者らの国外流出も本格化しており、国力の低下に拍車をかけそうだ。
〝母親英雄〟への奨励金の効果は
「私はこの点を強調しておきたい。それは、ロシアはソ連時代と同様に、〝母親英雄〟の称号を復活させるということだ」
プーチン大統領は6月1日、「国際子どもの日」に合わせ開かれた会合でこう強調した。10人以上の子供を育てた母親を「英雄」として表彰し、さらに100万ルーブル(約250万円)の報奨金を与えるという内容だ。7人以上なら50万ルーブル、4人以上なら20万ルーブルなどを与えるという。
「母親英雄」の称号はソ連がナチス・ドイツとの激戦の渦中にあった1944年に創設された。養子も含め、10人以上の子供を育てた母親が対象だった。背景には、人口減が国防力の低下につながるとの強い危機意識があった。
その制度を現在に復活させ、多産を奨励しようという狙いだが、厳しい物価上昇に見舞われ、都心部では日本以上に生活費が高いロシアで、250万円の報奨金で子供を10人育てようと思う母親がどこまでいるかは別問題だ。現在、ロシア国内では相次ぐ海外自動車メーカーの工場閉鎖を受け、一般的な乗用車の値段が高級スポーツカー並みに上昇している。