2024年4月18日(木)

Wedge REPORT

2022年7月29日

消極的な医師側の〝本音〟と
求められる薬剤師の役割

 なぜリフィル処方箋は広く普及していないのか。医療関係者らへの取材によって、普及を阻む2つの〝壁〟が見えてきた。

 最大の壁は「診療報酬」だ。都内のあるクリニックの医師は「患者をいかに多く〝さばけるか〟で収益が決まる現状の医療制度に対し、通院が減るリフィル処方の仕組みは馴染まないだろう」と語る。別のある医師は「外来診療をメインとする地域のクリニックには、1日20~30人を診なければ経営が成り立たない所も多い」と本音を吐露する。

 日本医師会の中川俊男会長(当時)は2月9日の定例会見で、「症状が安定している慢性疾患の患者であっても、定期的に(医師が)診察を行い疾病管理の質を保つことが重要である」とし、制度導入に対して「慎重の上にも慎重に、そして丁寧」に開始するよう求めるなど、リフィル処方箋に否定的ともとれるコメントを述べた。

 これに呼応するように、本来は個々の患者の状況に応じて判断すべき制度であるにもかかわらず、処方箋様式の「リフィル可否」を記載する欄に予め二重取り消し線を印字するなど、リフィル処方箋に〝一律で〟対応しないという方針の医療機関すら少なくない。

 前出の財務省幹部も「これまで日本医師会の度重なる反対で制度導入に至らなかった」と語る。中川前会長の発言に関して日本医師会に取材を申し込んだが、「役員改選が控えているため、お引き受けできない状況」との回答を受けたため、真意は確認できなかった。

 乗り越えるべき壁は診療報酬だけではない。医療制度・薬事行政を専門とする日本総合研究所調査部の成瀬道紀副主任研究員は「リフィル処方箋の普及には薬剤師の存在と、その役割が重要となる」と指摘する。

 リフィル処方箋による2回目以降の調剤の可否は薬剤師が患者の健康状態を確認して判断する。症状が安定している患者が対象とはいえ、医師の診察を介さないため、これまで以上に薬剤師の患者フォローや必要に応じた医師との連携が求められるということだ。

 厚労省は15年に公表した「患者のための薬局ビジョン」の中で薬剤師の業務の重心を調剤、在庫管理、報酬算定などの薬に関わる「対物業務」から服薬指導、医師への疑義照会などの患者に関わる「対人業務」へ移行していくことを掲げる。19年に改正された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」では、薬剤師による服薬期間中の患者フォローアップの義務化について明示されるなど、国として対人業務の強化を推進している。

 厚労省医薬・生活衛生局の太田美紀薬事企画官は、「将来、対物業務は機械化や自動化が進む可能性がある。患者の健康サポートなど〝人〟にしか果たせない役割の重要性はますます高まっていくはずだ」と述べる。

 だが、その重要性は必ずしも現場に浸透しているとは言い難い。都内の薬局で働くある薬剤師は「薬局内には調剤業務ばかりを好み、調剤室にこもりきりの薬剤師もいる。どの業務に注力するのかは個々の裁量次第だ」と話す。

 前出の成瀬氏は「日本では医師34万人に対し32万人もの薬剤師が存在しているが、その潜在能力を十分に発揮できていない」と指摘しつつも、「リフィル処方箋のさらなる普及により、薬の副作用に対する知識やその対処法など、薬剤師が持つ専門性を患者のために生かせる機会が広がるはずだ」と今後への期待を述べた。


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