2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2022年7月29日

情報が〝点〟から〝線〟に
ツールを利用した患者フォロー

 薬剤師が対人業務を強化するうえで障壁となるのが、患者に対する「接点」と「情報」の少なさだ。

 薬局のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するカケハシ(東京都中央区)の山﨑友樹氏は自身も薬剤師としての経歴を持つが、「薬剤師が患者と直接話す機会は薬の受け渡し時のみとなることが多く、さらに診察時に医師が患者に伝えた情報も薬剤師には共有されない場合が多い。処方箋にも、基本的には診察時の検査情報や病態の情報が記載されているわけではない」と現状を分析する。

 カケハシの提供する服薬指導サポートツール『Pocket Musubi』は、ITを用いた患者とのコミュニケーション向上を目指す。処方内容に適した質問を服薬期間中にLINE上で患者に自動送信し、患者の回答内容に応じて薬剤師のケアが必要な可能性がある場合は薬局側にアラートで通知してくれる。患者は服薬時や服薬後など、自身が不安に感じた際に懸念点を入力することが可能だ。

 岩手県盛岡市にある本宮センター薬局では1日約200枚の処方箋を受け付けるが、1年前に同ツールを導入した。薬剤師として働く冨山瞬氏は「導入前は電話などでフォローをしていたが、来訪する患者全てに対し、過不足なく実施するのは非常に困難だった」と語る。同じく薬剤師の山澤望氏は「これまで薬を渡すときの〝点〟でのフォローしかできなかった人にも、服薬期間中のフォローができるようになり、患者様に関する情報と理解が〝線〟になった感覚だ。小さな変化に気がつき、細やかなフォローができるようになったことで、患者様から相談される機会も増えた」と患者との信頼関係構築に手応えを感じるという。

 医師側から歩み寄り、薬剤師に情報提供を図る事例もある。首都圏を中心に21カ所のクリニックを展開する医療法人社団悠翔会(東京都港区)理事長・診療部長である医師の佐々木淳氏は「リフィル処方が適切に機能するには医師と薬剤師の情報連携が非常に重要になる」と指摘する。

 悠翔会では10年以上前からクラウド型電子カルテシステムを独自開発・運用し、自社系列のクリニックや連携する薬局、訪問看護先でも患者の電子カルテ情報の閲覧を可能にしている。

 このシステムを活用した好事例がある。佐々木医師が診察したある女性患者は足のむくみに悩んでいた。佐々木氏は「生理的なものだろう」と患者に説明していたが、共有する電子カルテで血液検査などの患者情報を確認したある薬剤師から「血圧の薬の副作用の可能性があるため薬を変えてみては」と佐々木氏に提案があった。アドバイス通りに処方内容を変更したところ、患者の症状が改善したという。

 佐々木氏は「患者情報を知り、医師との信頼関係があれば、薬剤師は必ず薬の専門家としての能力を発揮してくれる。各々の専門性と視点を生かして多角的に患者に接することで、治療の質や安全性は確実に高まる」と訴える。


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