2023年1月30日(月)

日本の医療〝変革〟最前線

2022年7月20日

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浅川澄一 (あさかわ・すみかず)

福祉ジャーナリスト、元日本経済新聞社編集委員

1948年、東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。71年、日本経済新聞社に入社。西部支社を経て、東京本社で流通業、サービス業などを担当。87年11月に生活情報誌『日経トレンディ』を創刊し、初代編集長に。93年に流通経済部長、98年から編集委員。高齢者ケア、少子化やNPO活動など、社会保障全般を担当。2011年2月に定年退社。公益社団法人長寿社会文化協会理事。

世界と比べ特異な日本の医療環境

 そもそも日本の医療機関が持つ急性病床数は世界一多い。89万床もある。人口1000人当たり7.8床だ。米英国はわずか2.5床、フランスは3.0床で、日本は経済協力開発機構(OECD)諸国で最多である。

 その上、コロナ死亡者は桁違いに少ない。22年7月14日現在、3万人台だ。英国は18万人台、イタリアは16万人台、フランスは15万人台。欧州各国の人口は日本の約半分だから、人口比でみると日本の12分の1から10分の1という少なさだ。もっとも東アジア諸国は、ほぼ日本並みの死者数かそれより少ない。

 この地域差の理由解明に現代医学は追いついていない。既存のワクチン接種状況や以前から備わる免疫の違いなど諸説あるが確定していない。自然界や生物社会は奥深く、医学がたどり着けない領域はまだ多い。

 日本が欧米に比べかなり特異な存在なのは間違いない。死者が少ないことは医療の緊急度が低いことであり、加えて使えるベッド数が多い。医療崩壊が起きるわけがない。

 それなのに、重症者を受け入れられなかった。重度から軽度になっても転院先ベッドが見つからないことも多々起きた。

自治体が病床転換できない「医療の壁」

 さすがに政府も対策を講じないはずはない。病床転換を狙って昨年1月に感染症法を改正し、都道府県知事に病床転換を促す権限を与えた。

 自治体は医療機関に対して、まず「要請」する。断られるとより強い「勧告」に切り替え、それでも応じないと「実名公表」できる。3段階の対応だ。

 昨年4月に奈良県が要請を発動し、その後、大阪府、茨城県、静岡県、東京都などが続いた。どこでも医療機関は応じず、十分なベッド数を確保できなかった。にもかかわらず勧告に踏み切る自治体は出なかった。

 改正法には「合理的な理由があれば応じなくていい」という抜け道があり、「コロナ拒否」の言い訳に使われてしまった。「看護師が足りない」「建物が小さくてきちんと隔離できない」などが、「合理的理由」となった。

 加えて、「医療機関と争いたくない」と、「本音」を漏らす知事もいた。自治体にとっては地元医師会や大手医療機関は対等の交渉相手ではない。医療の壁は高く分厚い。

 なぜか。医療業界が築き上げてきた強固な「経営観」を崩せないからだ。それは、日本医師会で会長職を1957年から25年も続けた武見太郎氏の時代に築かれた。開業医の利益をなによりも重視した武見会長は「プロフェッショナル・フリーダム」を掲げて、当時の厚生省と対峙、「ケンカ太郎」とも言われた。

 「プロフェッショナル・フリーダム」とは、医師が政府を含めた外部からの干渉を受けずに活動することである。診療報酬の増額を求めて、全国一斉休診の刃を振るうなど厚労相に公然と歯向かい、医療政策の主導権を握っていた。

 地域の開業医を束ねる日本医師会の「権力」は高まり、結果として「経営の自由」を唱えるほどに裁量権を伸ばしていく。この「権力」を支えたのは開業医の急増だった。


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