2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2022年7月22日

 同キャンペーンは、難解な試験を突破してもその先にあるのは食えない世界があるという構図を世の中に刷り込んだ。これでは司法試験に挑もうとする人のモチベーションを下げ、結果として数が増えないようになるのは自然の流れだ。

 著者はこう記す。

 「食えないキャンぺーン」の議論は、もはや時代遅れだ。(中略) その議論に終止符を打つべきであり、これからは、「魅力あるキャンペーン」を、私たち既存の弁護士たち(特に若手弁護士たち)が堂々と張る時代になるだろう。

 企業活動ではあらゆる場面で法律が関係し、企業の合併・買収(M&A)など重要な経営課題に取り組む場合は、それに関係する法律に詳しい弁護士が必須である。法務ニーズに比して弁護士の数が足りないことは、今後、社会的に大きな禍根を残すことになりかねない。

弁護士のさまざまな「姿」を描写

 本書で興味深いのは、各分野の弁護士が登場して自身の体験を紹介する部分である。ごく普通の市民にとって弁護士は、今もなお近寄りがたいイメージが一部にあるが、本書に登場する弁護士はそうした印象を払拭してくれる。

 伝統的なビジネスローヤーもいれば、AI(人工知能)を活用して仕事の効率化や合理化を進めようとする「リーガルテック」に取り組む人たちもいる。地方で弁護士が少ない地域で活動し、地域の法務ニーズに応えようとする人たちにも注目する。残念ながらまだ地方には弁護士が十分足りず、ニーズがあるにもかかわらず十分に対応できていない現実は、早期に解決すべき課題である。

 女性弁護士も増えている。子育てと両立しながらフリーランス弁護士として活躍したり、企業に所属して弁護士活動をしたりする人など働き方も多様になっている。

 こうした現状を踏まえつつ、弁護士の未来に向けての課題についても著者は言及する。それらは司法試験や法科大学院のあり方である。

 現在の司法試験は4日間にわたり論文式試験と短答式試験の計約20時間にわたるハードな試験である。それはいまだに古色蒼然たるスタイルであることが著者の記述からわかる。

 論文式試験については、受験生が参照できるのは、判例が載っていない(条文のみの)六法のみである。パソコンの使用は認められず、判例検索もできない。ボールペンや万年筆のみが筆記用具として認められるという「古風な」試験であり、これは旧司法試験から何十年も変わっていない「伝統」である。

 ITが普及し、実務でもパソコンを使って文書を作る時代に手書きの試験を強いているのは、明らかに時代に合っていない。著者が本書で主張するように論文式試験でパソコンの使用を認めるべきであろう。


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