2024年4月25日(木)

ビジネスと法律と経済成長と

2022年6月21日

 理容師免許のない美容師に顔そりなどをさせたとして、高齢者施設や病院に訪問して理美容サービスを提供する会社が京都府山城北保健所から理容師法に基づく行政指導を受けたと今年5月に報じられた(「美容師の「無免許ひげそり」に行政指導 京都の業者、常態化していた背景は」)。

(Nick David/gettyimages)

 高齢者施設などを訪問して理美容サービスを提供する「出張理美容」は、高齢化の進展に伴い、認知度が高まっている。「なぜ行政指導されるのか?」と思う読者も多いかもしれない。本稿では、美容師による顔そりが行政指導の対象となる理由や、出張理美容と法規制との関係を整理し、規制のあり方について考えてみたい。

美容師は顔そりをできない?

 理容や美容に対する規制を扱う法律は、戦後の伝染病の蔓延などにより公衆衛生の向上が課題であった1947年12月24日に理容師法として公布された。その後、理容師法の美容に関する規制が美容師法という別個の法律として成立し、現在では、理容師法と美容師法という二つの法律によって、理美容に関する規制がなされている。

 これらの法は共に公衆衛生の向上を目的とし、理美容を業として行うためには免許が必要であること、原則として、届出によって保健所の確認を受けた理容所又は美容所で理美容行為を行わなければならないことなど、ほぼ同一の規制を設けている。

 では、免許を取得し、理美容所で行わなければならない理容や美容とは何なのか。その定義は、理容師法が成立した47年から現在まで変わっておらず、
理容(理容師法公布時には理髪といった)=頭髪の刈込、顔そり等の方法により、容姿を整えること
美容=パーマネントウエーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすること

とされている。 

 理容と美容の定義が大事なのは、パーマなど施術が理容と美容のいずれかに該当すると、理容師又は美容師が理容所又は美容所で行わなければ法に違反する一方で、いずれにも当たらない場合、誰でも自由に施術できるからである。例えば、新たに取り組むサービスや新規事業が理容と美容のどちらかに該当すれば、理容師又は美容師を確保し、理美容所を用意しなければならないので、理美容に該当しないようサービスを変更しなければならない。また、理容と美容のいずれか一方のみに該当する施術があれば、その施術は理容師又は美容師が独占できることになる。

 そのため、特定の施術が理容や美容に該当するかは明確であることが望ましいが、先ほどの理容と美容の定義には曖昧な部分が存在するために、ある施術が理容や美容に該当するかという問題は、長年(今も)、理美容業界や理美容に近接する化粧関連の事業を営む企業の悩みの種となっている。

 その中で、パーマやカット、カラーについては、厚労省が、理容及び美容双方に当たるとの見解を示したため、理美容師のいずれかの資格を持っていれば施術できるとされている。

 一方で、冒頭の顔そりは、化粧に付随する軽い顔そりを除いて、理容のみに該当するとの見解が示されており、理容師のみが行える業務となっている。

 冒頭の報道では、美容師であるが、理容師ではない者が、出張理美容において、顔そりを行ったため、理容師法違反に当たるとして、行政指導を受けたのである。

 床屋や美容室ではあまり意識しないが、理容師のできることと、美容師のできることは、法で厳格に決まっているのだ。


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