2023年1月31日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年7月24日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

 雪と極寒と喧噪のあさま山荘に久々に静寂が訪れたその日、世界は新しい秩序構築に向け動き出したのであった。もちろん、あさま山荘と北京との間になんの関連もないわけだが。

 対外閉鎖してこそ維持することができた毛沢東の治世は、72年2月を境にして徐々に綻びを見せ始める。固く閉ざされていた国境がこじ開けられ、長期の対外閉鎖によって疲弊した中国社会に西側世界の風が吹き込むようになる。格段に広がることとなった西側世界との接触の機会を巧みに捉えた中国はやがて富強への道を突き進み、現在の「中華民族の偉大な復興」「中国の夢」を掲げる覇権大国へと変貌を遂げるのであった。

 あさま山荘事件に至る過激な新左翼を生みだした日本社会風土が持つ〝病理〟に目を奪われるあまり、北京で進められていた国際政治の時代を画する動きに対し、日本は目配りを欠いていたのではなかったか。日本社会が抜け出せない予定調和・前例踏襲という内向き姿勢を尻目に、大変貌を遂げた中国を軸にして国際社会は確実に地殻変動に向かっていたことになる。

 米中急接近という想定外の事態に対する備えを欠いたことによって生じた外交政策における蹉跌・齟齬が、現在に続く日中関係をさまざまな形で縛ってきたことを考え合わせるなら、日本は国際社会の動きに遅れを取った、あるいは国際社会を自己中心的に捉えることに狎れ過ぎてはいなかったか。

安倍元首相事件の裏で動く米中露の外交戦

 その時から半世紀が過ぎた今(2022)年7月8日、日本は再び予期せぬ大事件に遭遇し、驚愕し、たじろぎ、戸惑う。

 国民はメディアから断片的に伝えられる〝事件の背景〟に強い関心を示し、好奇の眼差しを向け、岸田文雄政権の対応を注視する。それと言うのも、多くの国民が事件を重く受け止めているからだろう。だが半世紀昔の「ニクソン・ショック」を思い起こすなら、やはり同時並行的に起きている国際社会の変化に細心の注意を向けることを怠ってはならないはずだ。

 安倍元首相が襲撃されたと同じ7月8日、タイ外務省スポークスマンは、7月初めに訪タイした王毅外相が「突発事態が発生しない限り、11月18、19日にバンコクで行われるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議に合わせ習近平国家主席が訪タイする」とタイ側に伝えたとことを明らかにした。

 「突発事態が発生しない限り」とはなにやら思わせぶりな発言ではあるが、習政権3期目に向けて環境整備が整いつつあることを示唆するものだろう。だとするなら春先に盛んに囁かれた「習降李昇」の4文字が象徴する「習国家主席と李首相との権力関係は逆転した」「今秋予定の第20回共産党全国大会における習総書記(国家主席)の3期目続投に赤信号が点った」という見立ては、これまでも政権交代期に多く見られた観測気球の一種と見なしておくべきではないか。やはり習近平体制は3期目に踏み出すことになるようだ。


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