2024年4月24日(水)

食の安全 常識・非常識

2022年8月14日

食料生産に農薬は必須だからこそ安全性評価

 グリホサート、ネオニコチノイド系農薬等の問題を踏まえてこの農薬再評価の仕組みを見ると、個別の農薬におけるさまざまな指摘も踏まえ、国が農薬に関する制度全体を改善しようとしていることがわかります。

 新しい法律、「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」(みどりの食料システム法)が7月2日に施行され、環境負荷低減策として化学合成農薬の使用低減が国の方針として明確になりました。化学合成農薬に依存するのではなく、病害虫や雑草の被害予防を重視し、耕種的防除(抵抗性品種や輪作など)、物理的防除(害虫侵入を防ぐネットや太陽熱による殺虫など)、化学的防除(化学合成農薬)、生物的防除(害虫の天敵を散布、微生物資材の散布など)を組み合わせるIPM(Integrated Pest Management=総合的病害虫・雑草管理)が推進されることになっています。

 他国を見ると、スリランカが除草剤グリホサートを2015年には禁止し有機農業にシフト、21年4月には化学肥料や殺虫剤の輸入も禁じました。ところが、農産物の収穫量が激減し11月には禁止が撤回されました。農業生産の混乱は今も続いている、と報じられています。

 同じアジアの国である日本でも、無農薬や有機栽培では必要な食料を賄えません。もちろん、そうした農法も選択肢としてあって当然ですが、一方で、農薬も食料生産には必須のツールです。安全性をしっかり確保したうえで使われるべきです。

 農薬の再評価の工程は、一定の透明性を持って進められる予定です。食品安全委員会では、農薬製品の企業の知的財産権の侵害などを防ぐため、個別成分の審議は非公開ですが、議事録はおおよそ2〜3カ月後には、同様の権利侵害につながる部分などを除き公開しています。農薬を担当する委員の説明記事もあります。どの行政組織も農業メーカーにおもねることなく科学的に再評価を行うべく、準備を進めています。

 現在は、あやふやな情報、都合のよいとこどりでバイアスのかかった〝危険情報〟が、大量に流れています。テレビなどのマスメディアでも提供する情報に偏りがみられます。現在の農薬は、それほど単純に判断できるようなものではありません。科学的に妥当な情報を収集してじっくり考え、再評価にも関心を持ってほしいと思います。

(本記事の内容は、所属する組織の見解を示すものではなく、ジャーナリスト個人としての意見に基づきます)

<参考文献>
農水省・農薬の再評価
食品安全委員会・食品安全セミナー「農薬の再評価」
上迫大介, 農薬取締法の改正と,農薬による長期的な生態影響への対応.環境技術  2020,  49巻5号 p. 240
農水省・みどりの食料システム戦略トップページ
農水省・病害虫防除に関する情報
朝日新聞デジタル・「100%有機農業」めざしたスリランカ 農家は苦境に陥った(2022年7月31日)

   
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