しかし、現在ではこれらはほぼ姿を消し、毒劇法の対象とはならない物質(普通物)が9割近くを占めています。
そのほかにも国がチェックする仕組みはあります。農薬は一つ一つ、使える作物と使い方が決まっています。農薬メーカーが、使える対象作物を増やしたい場合、新たな作物に使った時の効果や、残留農薬量などを調べ、そのデータを農林水産省に届け出し、厚生労働省が残留基準を設定したり改定したりします。また、輸入食品に新たに残留基準が設定されることもあります。
そうした際に、データが内閣府食品安全委員会に提供され、国民が経口摂取する場合のリスク評価が行われてきました。食品安全委員会の評価書は、一つの農薬について何度も行われ、第6版とか第7版とかに改訂されているものもあります。それは、新たなデータが追加されたときにその都度、検討することになっているからです。
ただし、これまでは「企業がデータを追加した際、それを評価する」というやり方でした。しかし、科学の発展に伴い試験や評価の方法も新しくなってきており、より精密に毒性の程度や内容がわかるようになってきました。そのため、18年の農薬取締法改正で、最新の科学的知見に基づいて行われた多数の試験データ一式を企業が改めて提出し、多様な角度から国が新たに審査するという「再評価制度」が決まったのです。
この再評価の仕組みはすでに、米国や欧州連合(EU)では実施されています。
ネオニコ、グリホサートからはじまる再評価
世界で用いられる農薬成分は600以上あると言われ、国産品にも輸入食品にも一定量は残留しています。意外に理解されていないことですが、国産品と輸入食品で設定されている残留基準は同じ。輸入食品だから緩い基準が適用される、というわけではありません。
これら既存の農薬について、一つ一つ再評価します。したがって、どれから評価を始めるか、という優先順位づけはとても重要です。農水省は、使用量が多い126成分を優先することにしました。その後に「使用量は少ないが、許容一日摂取量(ADI)が低いもの」57成分、つまり毒性が高めのものが続く予定です。
21年度から4カ年に再評価をはじめる農薬はすでに決まっています。まず企業が資料、データを提出した後、再評価の実際の作業が始まります。21年度開始は、ネオニコチノイド5成分と除草剤グリホサートなど。表1で21年度と22年度にはじまる農薬を掲載しました(黄色のマーカーを引いたのがネオニコチノイド)。
再評価がどのくらいの時間を要するのか、農薬成分ごとにそれぞれ、化学的な性質も異なるため、画一的なことは言えません。EUでは一つの農薬について3〜5年程度はかかっているようです。
安全性は食べるヒト、使うヒト、ほかの動植物で検討する
安全性は、ヒトが食べる場合の経口摂取の安全性/農薬を使用する農家の安全性(主に皮膚に付いたり吸い込んだりするばく露)/環境中のさまざまな動植物等への影響/土壌や水への残留……などさまざまな角度から検討されます。
ヒトが食べる経口摂取のリスク評価については、内閣府食品安全委員会が準備を進めています。21年度開始の農薬成分については、農薬メーカーが農水省に資料(データ)を提出し終わり、資料が整理されつつあるようです。
食品安全委員会への再評価依頼はこれから。依頼を受けた後は、五つの農薬専門調査会が各農薬成分のリスク評価を進めてゆくことになっています。
念のため説明しておくと、今回の再評価によって食品の基準値が厳しくなる、と期待したり不安に思ったりする人がいるようですが、それは誤解です。