2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年8月31日

 更に、IDBへの出資比率が0.004%に過ぎない中国が、IDB借款プロジェクトの調達額では米国企業の7倍近くに及ぶとのことである。米国が中南米諸国に対する多国間開発協力の柱と位置付けて来たIDBが、中国のこの地域への進出を促進する役割を果たしてきたことは皮肉である。

 しかし、中国に資金力があり、中国製品が安ければ、そして中南米諸国に要望があれば、このような結果になるのは自然な成り行きでもある。西側先進国としては、途上国の指導者が自らの権威付けのために採算を度外視して建設を希望する巨大インフラ・プロジェクトに対する中国の融資を問題視するだけ十分ではない。IDBの融資だけでは不足するような場合には、西側先進国がより積極的に協力することに加えて、この論説が注目するように、中国以外の新たなパートナーを求めることも有力な対策であろう。

脱中国依存の体質改善急務

 台湾が外交関係を持つ15カ国の内8カ国は中南米諸国であるので、これらの国のプロジェクトに対して台湾がIDBと協調融資を行うことは十分可能であり、去る5月にはベリーズとの間でそのような方向性についての覚書が調印された。台湾は、アジア開発銀行では地域としての加盟資格が認められており、IDBでも同様の対応は可能ではあろう。

 この論説は、中国が反発して脱退でもしてくれれば尚更良いと示唆しているが、相当揉めることにはなろう。むしろ豪州、湾岸諸国、インドなどのIDB加盟を促し、中国に依存しないような体制を早急に構築すべきであろう。

 更に、中国の借款の調達は一定比率以上が中国タイドであること、政治的思惑で柔軟に中所得国等にもいわゆる優遇借款が供与されているなど、中国は、経済協力開発機構(OECD)/開発援助委員会(DAC)の援助基準に反している。そのような国の企業については調達を制限し、所得水準の高い国々にも、その時々の経済的事情に応じ柔軟な経済的支援ができる取り組みを検討すべきであろう。

 例えば、戦略的に極めて重要なパナマは、中国が関心を高めていることは想像に難くない。既に運河周辺のインフラ、電力、物流を中心に中国企業が関与を強めているが、最近の厳しい経済事情もあり、中国に付け込まれないよう留意の必要があろう。

 トランプ政権末期に、IDB総裁に米国人のクラベル・カローネが就任したこともあり、バイデン政権はIDBに対して慎重であった。しかし、去る6月の米州サミットの機会に「経済的繁栄のための米州パートナーシップ」構想を発表し、ようやくIDB等の活性化を柱の一つに掲げ、米州投資公社への増資に踏み切った。バイデン政権としては、種々の方策を効果的に連結させ、経済面でこの地域での中国の進出に対抗する必要があろう。

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