日本は相次いで中韓と自由貿易協定(FTA)、EUと経済連携協定(EPA)の交渉に入り、米国とアジア・オセアニア諸国11か国で構成されるTPP交渉にも7月から参加することが決まった。
いままで、日本のFTA戦略は地理的に近い東南アジア諸国との経済関係深化を重視して推進されてきた。今後は、貿易の最重要相手国・地域との経済関係も深化させる形へと拡大進化することになる。
しかし、新たなFTA戦略で海外経済取り込みが進むとの期待が強い一方で、とりわけTPPへの参加については否定的な意見も根強い。なかでも農業が厳しい状況に置かれることが懸念され、政府もTPP参加で農業生産額が3兆円減少すると試算している。
確かに、高率の輸入関税が維持できなくなり、農産物が自由に輸入されるようになると、日本の農業への打撃は大きい。そして、国内での農業生産をいかに守るかは、日本の食料安全保障にも通じる大きな課題だ。
一方で、TPP参加は消費者メリットがとりわけ大きいことにも目を向けなければならない。TPP参加で日本の農業生産額が減少することは、とりもなおさずその減少分のかなりの割合が消費者に食料価格下落で還元されることを意味する。
TPP参加の最大メリットは消費者利得
3月15日に政府が発表した「関税撤廃した場合の経済効果についての政府統一試算」では、別紙で農業生産額3兆円減少の内訳を主要農産物別に示している。そこでは、米、小麦、牛肉、豚肉、一部乳製品(バター・脱脂粉乳)、砂糖の主要農産物6品目で、生産減少額は合計2.1兆円となっている。
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この試算内訳からは、生産減少額から農産物輸入額を引く形で消費者が現在よりもいくら農産物を安く購入できるかも計算できる。その消費者利得を計算したのが図表1で、主要農産物生産額減少2.1兆円のうち約1.2兆円に上る。各世帯平均では、年間2.3万円ほど当該農産物購入額が浮くことになる。
実際には、農産物はそのまま消費されるだけではなく、加工や調理を経て消費者にわたる。したがって、消費者利得がすべて最終消費者である家計に還元されるわけではない。
一方で、農産物価格下落の効果は、これら農産物を使用した加工品や調理品の全般的な値下げにまでつながると同時に、値下げで生じた消費余力が他の消費に向かうことで経済成長を高めることにもなる。